街を歩いてると、よく猫を見かける。
大体が野良猫だ。
なんでもいい、
どんな猫を見ても思い出す記憶がある。
どうでもいいような、ぼんやりとした、
ほとんど思い出せない薄い何かとしか思えない程の。
コンビニから帰ってきたらテオくんは撮影の準備をしていた。
元気のいい挨拶をしてから俺たちは企画をカメラの前でやった。
その日はテオくんの企画。
紹介したい所だけど、
あまりにも独特なものだから説明に時間がかかるからやめておくよ。
撮影後に気が付いた。
せっかく帰ってきたばかりなのに早速買い忘れ。
笑いながらテオくんは言った。
つられて笑った。
財布を持つとテオくんは何も持たずに着いてきた。
どうやら買いたいものはなく、
ただ単に着いてきたかっただけらしい。
コンビニまでの道のりでたくさんの話をした。まあ主にテオくんが。
…ふと、前世のことを考えた。
テオくんが話に出したわけじゃなくて、
ふっと出てきた。
前世はなんだったのかな。
同じ人間?人間でもじんたんではなく普通のじんだったかもしれない。
それとも人間じゃない?犬か?猫か?
テオくんは悔しそうに言った。
喜びながらテオくんは言う。
ほんとに嬉しそうな笑顔だった。
なんであんな嘘をついたのか。
はっきり言えばいいのに。前世のことって。
それなら奢らなくてもよかったかもしれない。
奢る奢らないの話じゃなくて、
テオくんは前世なんだったのかな?とか、いくらでもあったのに。
早くコンビニに着かないかな。
さっさと帰って家に帰りたい。
家でテオくんとゆっくりしてる方が楽しい。
ふと、テオくんが隣に居なかった。
後ろを振り返ろうとした時、
横から昼間にしては眩しすぎる光がこちらを照らしていた。
いや、俺が暗過ぎてそう感じたのかもしれない。
光を無視してテオくんを見ると、
テオくんはすごく怯えたような顔をしていた。
ああなんだ、
トラックの光か。
考え事をしていたら赤信号に気付かず轢かれた主人公、
まさか俺になるとは。
そんなありきたりな終わり方なんて望んでなかったのに。
でも俺にはそれがお似合いかもしれない。
どうせならテオくんになにか言えばよかった。
光に消えてしまいそうな声だけが脳内に残っている。
今にも車たちの音に掻き消されてしまいそうな、
か細い声だった。
嫌な臭いがする。
薔薇が散ったように見えた。
気持ち悪いほど青い青空がそこにあった。
薄すぎる水彩絵具、
思い出したいのに思い出せない、
どうでもいい過去、
すこし水を入れ過ぎたようだ。
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ある海の見える綺麗な街に、
黄色の猫が一匹いました。
その猫はとくに特徴がなく、強いて言うなら食べることが好きでした。
黄色の猫は散歩が好きで、
よく海の近くを歩いていました。
潮の香りがする、とても綺麗な場所です。
歩いていたら、
道の向こう側に赤色の首輪を付けた猫がいました。
こちら側に渡る様子でした。
赤い首輪の猫は車に気が付いていません、
その瞬間に黄色の猫は飛び出しました。
黄色の猫はオレンジ色に染まり、
首輪の猫は呆然と見つめていました。
あの時は君だったんだ──
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はい、わかりましたよね?
テオくんがじんたんに言ったのは、
前世に助けてもらったからです。
すこし水を入れ過ぎたようだ。とは、
助けてもらってもなお、思い出せないって意味ですよ。
まあこれ以上言う必要なさそうなので言いませんね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。