右手にはシワだらけになった切符。
広いくせして伽藍とした静まり返っている駅のホーム。
左胸にはまだ鼓動が残ってる。
電車はいつ来るのだろう。
俺はずっとずっとこの駅で待ってるのにな。
自分の声が駅のホームに響いた。
俺が向かおうとしてる駅は左隣の駅。
いつも笑い声と人の笑顔で満ちている楽しい駅。
そこにいる人はみんな優しくて、
いつも優しい歌声が響いているんだ。
その駅の名前は──
また呟いた。
なんか呼びたくなったんだ。
なんとなく、ね。
その駅に向かう為の切符は買えたんだ。
すごい勇気を振り絞ったんだよ?
なのに、
肝心な電車が来ない。
待っても、
待っても、
待っても、
何時間、何日待っても来ない。
また声が響いた。
今にも消えそうなくらい小さかった。
お金と引き換えに勇気を払った。
そんな切符が無駄になるの。
早く来てくれないと。
また呟いた。
なんだか言いたくなったの。
寂しいんだ、
悲しいんだ、
早くテオくんと会って笑いたい。
早くこの想いを伝えたい。
やっと勇気が出たんだ。
なのに………
神様の意地悪。
俺への天罰なの??
どんなことでもやるからさ、
お願いだから電車を呼んで。
人生に一度しか買えないこの切符。
お願いだよ。
テオくんが取られちゃう前に伝えなきゃいけないんだ。
向こうの方から音が聞こえる。
光が見える。
何かがこっちに向かってくる。
電車だ。
同時に左からも来た。
俺が乗るのは右から来たやつ。
間違えたら元も子もない。
" 今すぐ会いに行くね。"
心の中で呟いた。
ぷしゅー
電車のドアが開かれた。
ぷしゅー
電車のドアが閉まった。
" じんたん " という駅に誰かが降りた。
静かで誰も居ない駅に、誰かが降りた。
" 家宝は寝て待て "
誰かがそう言った。
神様はいつでも意地悪だ。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。