人間って生き物は自分の好きな記憶ばかり覚えている。
例えば好きな歌の歌詞とか、
楽しかった修学旅行の思い出とか、
初めてのライブのわくわくした記憶とか、
人は覚えている。
でも俺はその逆だ。
悔しくて悲しくて涙が出そうなくらいの記憶ばかり残ってる。
例えばサッカーの試合に負けた悔しい気持ちとか、
大きな恥をみんなの前で晒してしまった時とか、
友達を傷付けてしまった記憶とか、
俺は覚えてる。
いつも通り動画を撮る。
じんたんが持ってきた企画をふたりでやる。
そんな楽しい記憶がすぐに消える。
動画撮影が終わるとすぐに消えてしまう。
雰囲気とかで何をしていたかとかわかるんだけどさ。
ほんとに嬉しかったり楽しかったりした記憶はもっても5分くらいしかもたない。
だからじんたんにキスマつける企画とかだってめちゃくちゃびびった。
気が付いたら俺、
好きな人の首吸ってたんだもん。
メルカリとのコラボMVだってそう。
いつの間にか唇が少し当たってた。
目の前には好きな人。
バレないようにすごく頑張った。
なんでそんなこと知ってるかって?
そりゃ毎日動画とか見て何したか確認するためだよ。
じゃなきゃ今頃じんたんに心配されてるよ。
そんなどうでもいいような、
寂しい記憶ばかり心の片隅に残ってる。
まただ。
きっと動画撮影していたんだろう。
何も覚えてないや。
どっちが何のどんな企画を持ってきたのか、
どんな会話をしていたのか、
何も覚えてない。
じんたんと出会った記憶もいつの間にか消えてしまっていた。
確かに俺はじんたんと出会った。
スカイピースを結成した。
一緒にひとつ屋根の下で暮らしてきた。
なのに、
なのに、
忘れてしまう。
じんたんとか俺が大怪我した時の悲しい記憶が残ってる。
いつもいつも頭の中を過ぎる。
泣きそうな声で言った。
まって、
やめて、
お願い神様。
あと5分でいい。
5分でいいから記憶を伸ばして。
お願い。
目の前にはしくしくと静かに泣く好きな人がいた。
抱きしめてあげたい。
頭を撫でたい。
今俺は何をしていたんだ。
何もわからない。
いつもとは雰囲気が違う。
俺がじんたんを泣かせたのか?
違う、
絶対に違う。
喧嘩でもしたのか?
それとも何か感動するようなことがあったのか?
じんたんは帰る準備をした。
行ってしまう。
じんたんが、
じんたんが、
でも何も出来ない。
何も覚えてない。
わからない。
何て言葉をかければいい。
何をすればいい。
気付いたらドアの閉まる音が聞こえた。
じんたんが何を言ったのか、
俺が何を言ったのか、
この場で何があってどんなことをしたのか、
なんも覚えてない。
けどひとつだけ確実にわかることがあった。
俺はあの瞬間にじんたんを傷付けた。
次の日、
じんたんは集合時間になっても来ることは無かった。
LINEも未読のままだ。
みやの家にもいないらしい。
たくまも知らない。
もしかしたらみんなで俺を騙してるのかもしれない。
かとしたら俺がただ単に忘れてるだけなのか。
それすらも分からなくなった。
ええと今日は、
何月何日だっけ?
あの時、
じんたんは確実に俺に何か伝えた。
その後泣いた。
検討もつかない。
_________これの正体がわからない。
棒は何を表し、
何を伝えたかったのか。
じんたんの口から何を発したのか。
数日後、
じんたんはスカイハウスに現れた。
やけに痩せててじんたんじゃなかった。
嬉しい。
きっと帰ってきたというこの記憶もじきに消える。
ほらまた消えたんだ。
なぜここにじんたんがいる?
いつからいた?
じんたんは少しの間喋るのを躊躇っている様子だった。
そして口を開いた。
じんたんの好きは俺の好きじゃない。
きっと綺麗で子供みたいな好き。
この前、この前…………
この前はいつのこの前だ。
何があった。
何をした。
今にも泣きそうな悲しい声で言った。
もう何がなんだかわからない。
『好き』はどんな好きなんだ。
『この前』っていつなんだ。
『からかってる』とはなんの意味なんだ。
忘れろ。
忘れたくなくてもどうせ忘れてしまう。
意味がわからないこの状況、
忘れるな。
忘れたくない。
忘れちゃいけない。
気付いたらじんたんの腕を掴んで止めていた。
この気付いたらにはまだ記憶がある。
記憶があるうちに聞かなきゃ。
あの時の________には何が込められてたのか。
さっきの好きには何の意味があるのか。
はやく、
はやく答えて。
もしかしたら消えちゃうかもしれない。
じんたんは困った表情をしている。
そりゃそうだ。
怒った様子で怒鳴ってみたら泣きそうな声でお願いしてるんだもん。
情緒不安定すぎる。
違う好き。
それは、
俺と同じってことなのか?
ああ、
________の正体はこれだったのか。
はやく、
記憶が消える前に。
自分のこの口で伝えなきゃ。
じんたんの腕を掴んで廊下で立ち止まっている。
どんな状況なんだこれは。
前と同じように雰囲気がわからない。
ただ、
じんたんは前みたいに悲しい顔はしてなくて驚いた顔をしていた。
じんたんの顔が赤い。
何が?
何を言ったんだ俺は。
初めてじんたんが聞いた。
気付かれたのか。
ごめんねじんたん、
俺さ、
じんたんはまた泣きそうな顔をした。
そしてこう言った。
そして動画を撮ろうと言った。
忘れたくなくても忘れてしまう。
俺というアルバムに楽しい記憶が載らない。
あれほど悲しくて寂しくて今にも泣きそうな笑顔をしたじんたん、
忘れたいなと、
心の底から思った。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
はい、これは解説いらないね!(めんどくさい殴)
要するにテオくんは楽しい記憶とかそういった記憶をすぐに忘れてしまう、
両片思いの悲しい()お話なのです。←は?
いやね、ハッピーエンドにしようとしたんだけど、
やはりここはバドエンにしたかった!!!!←←
あのこれ、
セカオワのSaoriさんが書いた小説『ふたご』のやつから影響を受けまして、
そして記憶に関することを書きました。
まるまるパクったけどわけじゃないよ!?
少し!リスペクトしただけ!!(言い訳するなばか)
ほんとにこのふたごはいい小説だよ!←
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。