第60話

輪っかの約束【じんたん】
821
2018/04/24 15:23

ずっと前の夏祭り。




まだ小さい頃だった。




テオくん
大人になったら、ちゃんとしたやつあげるから
じんたん
うん……



そう言ってテオくんは、





泣いている俺の薬指に輪っかをはめてくれた。






























テオくん
……あ!

静かだったスカイハウスにテオくんの声が響いた。

テオくん
花火大会!明日やん!!
じんたん
あー
テオくん
なにその反応〜


俺は夏祭りがあまり好きじゃない。


テオくん
行こうよ!
じんたん
うん、いいよ


テオくんの笑った顔が見たいから、



はにかんでそう答えた。




















夏祭りに行くと、



またあの約束が蘇ってくる。







子供の頃にした単なる " 口約束 " 。






テオくんは俺を泣き止ませるためだけに言っただけの、



軽い一言。








それを俺は本気にして大人になった。










机の上の引き出しに大切にしまってある輪っか。




プラスチックのおもちゃ。




どんな宝石よりも輝いてる綺麗な輪っか。











テオくんはきっと、



重いって思うんだろうな。













今日の夏祭りくらい楽しまなきゃ。




せっかくテオくんとふたりで、


プライベートで行けるんだから。









俺は浴衣を着て、




お祭りにでもありそうな笑ったお面を顔につけて家を出た。





テオくんに、



そんな想いが伝わらないように。











せめて今日だけは──

















じんたん
テオくん行こー?
テオくん
わかったー


テオくんの足音が近付いて来る。


テオくん
じんたん浴衣?
じんたん
そう言うテオくんもじゃん
テオくん
まあね


テオくんが浴衣を着てると、



いつもよりかっこよく見えた。





首筋がよく見えて、


鎖骨もちらっと見えた。


じんたん
テオくん鎖骨…
テオくん
暑いんだもーん!
じんたん
ふふw


子供みたいなことを言ったテオくん。





あの口約束だってこんな感じで言ったんだろうな。






……じゃなくて、



だめだめ、考えちゃだめだよ。







じんたん
じゃあ行こ





街の方に近付くと、



人の笑い声が多くなっていく。






焼きそばやイカの焼いた匂いがする。


テオくん
お腹空いたね〜
じんたん
そだね


確かに空いた。




まあ、

いい匂いがすると空くよね。



テオくん
俺、とうもろこし食いたい
じんたんも行こ?
じんたん
いいよ


とうもろこし屋の所にふたりで並んで、


ひとり一本ずつ買ったとうもろこしを少しずつ食べた。











向こうの方に小さな子供が居た。




ひとりが泣いてて、


ひとりが泣き止ませようと頑張ってる。






それでも泣き止まない。





なぜかその子達に目がいった。




テオくん
ねえ、じんたん_______


テオくんが隣で俺に話しかけてる。




一応うなずいた。





だけど、


すぐに子供の方へ目がいってしまう。






だって、



まるで俺とテオくんみたいだったから。









あの子はどこの誰で、


名前もわからないけど、




俺とそっくりで。





もうひとりはテオくんそっくり。







あんなに小さな世界に、



あんなに大きな物語があった。












じんたん
…あれ?


気付いたらテオくんがいない。




さっき何か言ってたけど、



ちゃんと聞いとけばよかった。









『テオくん?』なんて、


子供の頃みたいに大きな声で言えないし、




だからといってこの場から離れるとテオくんが困っちゃうし。







どうしよう……



せっかくの夏祭りなのに。







じんたん
……あっ



目に付いたのはおもちゃ屋さんだった。




小さな子供たちが群がってるおもちゃ屋さん。






銃のおもちゃや女の子のお人形。




その中に輪っかがあった。






あの時から時間が止まっているように、


何も変わってない同じ輪っか。







また思い出してしまった。






だめなのに。






















じんたん
君はいつまでここにいるの?








ドラえもんのお面をかぶった、


子供の俺が喋った。







小さな浴衣にりんご飴。






じんたん
あの約束はどうだった?





何も知らないのか、この子は。






この世の中は同性愛を認めないことを。



テオくんのあの一言は軽いものなのだと。






じんたん
テオくんは、テオくんは嘘をつくような人じゃないよ
 



そうだよ。




テオくんはバカなほど正直だよ。







でもさ、それとこれとは違う。




じんたん
約束したことは必ず守ってたよ
いくら守れない約束でも、守ろうと必死になってたよ



だから、



あんなのは冗談なんだよ。







じんたん
ほら、そんなお面取って
俺のと交換する?


そいつは俺のお面に触れようとした。


じんたん
やめろっ…!


衝動でそいつを突き飛ばした。


じんたん
……あ、ごめ
じんたん
約束は、守らなきゃ…


言葉を遮ってそいつは言った。




お面で表情がわからない。






















テオくん
……じんたん!!


テオくんの声が後から聞こえた。


じんたん
テオく、
テオくん
待っててねって言ったじゃん!!
心配したよー!?


ああ、


さっき話しかけてたのは待っててねって言ってたんだ。




うなずいたからテオくんは……



じんたん
ごめん……
テオくん
別に怒ってないからいいよ〜
あ!もうすぐで花火始まる!あそこ行こ!神社!


テオくんは俺の腕を引っ張って階段を登った。





神社にはもう人が結構居て、



なんか残念だった。





こーゆー時は神社にふたりきりとかじゃないのかよ……













ドーーーン!!












心臓に響くこの音が懐かしい。


テオくん
おぉ


周りのひとたちも歓声を上げた。




それからドーンドーンと音が神社に響く。







すごく綺麗だった。






テオくん
綺麗だね……
じんたん
うん……


ほんとに小さな小さな声でしか返せなかった。




それに、




テオくんの方すら見れなかった。







今、どんな顔して花火を見てるのか。






テオくんは何を思っているのか。












花火すら見れない。



綺麗な懐かしい花火すら。





顔を上げることが出来なかった。








思い出さないって決めたのに。















ドラえもんのお面のやつがそんな俺を見て嘲笑う。




指を指して。











『大人になったら、ちゃんとしたやつあげるから』






そんな口約束でさえ、



俺を嘲笑う。











テオくんは、



今何を考えて何を思ってるの?




相方なのに何もわかんないや。














涙すら出てこない。



声も出ない。



顔も上げれない。













テオくん
……じんたん?


テオくんが優しく、


心配したように俺に話しかけた。





それでも顔を上げることが出来なかった。





出来たらこんなに苦労してないよ。



テオくん
じんたんこれ……



薬指に何かが当たった。




じんたん
えっ?


あの時の輪っかだった。


テオくん
あ、ごめん
子供用のだからじんたんの指にはまんない…
じんたん
ふふっ……


こんな大事な時にもかっこわるいテオくん。




でもそんなとこが大好きで、




大好きでたまんなくて……









テオくん
あの、子供ん時の約束……
懐かしいなって思ってさ


照れくさく笑う。



顔がほんのり赤い。


じんたん
懐かしいね…



ドラえもんのお面のやつが俺を見て笑う。




テオくん
ごめんね、いいやつ準備出来てないや……
じんたん
覚えててくれただけでも嬉しいよ


遠回しの告白。





オッケーしたのは気付いてくれたかな?







テオくんは恥ずかしそうに、



でも幸せそうに笑った。









じんたん
今度は、ちゃんとやつ、欲しいな……



小さく小さく呟いた。




誰にも聞こえないように。







花火の音に紛れさせながら。



テオくん
頑張って用意するね





あ、聞こえてたみたい。















ドラえもんのお面のやつが居なくなっていた。
















じんたん
ほら、言ったでしょ?
じんたん
テオくんは約束を絶対に守る人だって






うん、




確かにそうだった。



















微かにりんご飴の匂いがした。
















ドラえもんのお面がまた笑った気がした。



















ドーーーン!!!

















今度はちゃんと顔を上げることが出来た。
























ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




















かるらー
かるらー
いぇあ、またまた意味のわからんお話ですね。
なんだか話が急展開すぎた、すまぬ……(´;ω;`)

今回は完璧じゃないテオくんを書きたくて書いたの。
リアリティー出そうとしたけど、全くだったね!←
やはりみんなすごいな……(´-ω-)ウム

夏祭りなんて、季節早いプラスありきたりでごめんなさい。
かるらーワールドは炸裂されませんでした←は?

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