前の話
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椅子に腰を掛けてから、先程拾った手のひらに収まる程度の大きさのソレをマジマジと見つめる
ガラス…ではなく、鉄のような容器のボトルにコルク…の様な見た目の何かで蓋をしている
ソレは、ボトルメッセージと呼ばれる商品
古きを忘れずにのキャッチフレーズでお馴染みの株式会社Voの看板商品である
人類の生活圏は、地球だけに留まらず宇宙にも及んで早数世紀
宇宙ステーションの外装の掃除をしている俺は、今日の仕事中たまたまこれを拾った
ボトルメールはボトルメッセージに
海は宇宙に
ものは変われど、人間の本質はこういうものが好きなのだろう
宇宙産業が始まった初期も初期に作られた、ボトルメッセージという商品は今も変わらず宇宙を漂い、終着点を探している
情報の観点からなのか、技術の観点からなのかは知らないがここに収録されているお便りは1度しか再生されない
宇宙ステーション清掃歴の長い先輩や運の良い同僚達のボトルメッセージ自慢を聞かされたことのある身としては、自分がそちら側に回れる機会をそうやすやすとは逃すつもりはない
宇宙清掃員という仕事はボトルメッセージを拾う率が高いとはいえ、極少数だ
ボトルを落とさないように握りしめ、清掃員に割り振られている個室に戻る
濡れたタオルで体を拭き、消臭スプレーを身体にかけてベッドに腰を掛けて、机に置いておいたボトルを再度手に持つ
ボトルの外に書かれている開け方をチラチラ見ながら、物凄く固い蓋をギニニニニと右に回す
すれば、カチッという音と共に蓋が外れた
慌ててその口を耳に当てる
理解できる母国語で良かったと胸をなでおろし、意識を耳に集中して声を聞く
ここはベンチャー企業が多く存在しているコロニーである
食べ物大好き日本人は、宇宙より地球の新鮮な食べ物を選んだのでコロニー数が少なく、一番近いコロニーとここでも、漂うスピードで言えば年単位かかる気がする
何時なのかも何処なのかも分からないが、ボトルに詰め込まれていた賑やかな会話に思わず笑みが溢れる
ボトルを持っていない方の手で、机を軽くタップしてネットを開く
その言葉が終われば、ボトルからは何も音はしなくなった
インターネットが導いた情報では、自動翻訳機能がついていないボトルメッセージの最後の型が出たのは50年前と出ていた
50年という時間を宇宙で漂ったこのボトルは、その内にしまっていた声を届けきったのだ
ボトルメッセージの検索結果をスクロールしていたその指はあるところで止まる
そう独り言を言いながら、俺はそこに書いてあったボタンを押す
そしてそれから数日後
つまり、俺が拾ったあのボトルメッセージの型である
自動翻訳機能がついてないその欠陥品の説明書をマジマジと読んだあと、ふぅーと息を吐いてそのボトルに向き合い、その口に話しかける
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。