今は34分59秒。あと1秒で私は………。
生き返った。というより意識を取り戻した。今、目を開くことができる。口も動かすことができる。だか喋れることができない。喉が渇いているからか。目に見えるものはどこかの天井。病院だと思う。自分の事はしっかりと覚えている。私は……誰?
【キーンコーンカーンコーン…】
すぐ近くの学校のチャイムが聞こえる。
【ダダダダダダダダダ…】
足音が聞こえる。
【キキュ!】
【コッコッコッ…】
【ガラガラガラガラ…】
【ガン】
私の名前を呼ばれた後、ものすごく〈実羽〉という人に身体を揺さぶられられた。
声が出ない。
水をもらおう。
私は手元に置いてあった紙にペンで
〔私に飲み水を下さい。〕と書こうとした。
だが、手が震えて文字が書けない。
結局〔水〕しか書けなかった。
【コッコッコッコッ…】
【ダダダダダダダ…】
一口飲んだ。
声は、出るかな?
【ガラガラガラガラ…】
病室のドアが開いた
ひと段落の検査を終えた後、ある一言を言われた。
1人になってしまった。
『記憶喪失』なんてどっかの夢物語としか思ってなかった。何かの間違いではないか。不安がいっぱいで、今にも押しつぶされそうだ。
記憶喪失1日目が終わった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!