気が乗らないまま、教室のドアを
少しだけ開いて中をのぞく。
お客さんの注文を聞いたり、
料理を運び回ったりで、みんな忙しそうだ。
どうしよう、入りづらいな……。
頼まれてからの時間が長すぎるし、
絶対に変だと思われてるよね。
私のせいで迷惑かけてたらと思うと、
ますます入りづらい……。
ドアの前でしばらくためらっていると……
俊がなんの迷いもなしに全開にしてしまった。
あ然としながら見つめる私を置いて、
教室の中にスタスタと入って行く俊。
気づいた亜莉朱ちゃんが困ったように、
かけ寄ってきた。
気まずくしていると、俊が説明してくれる。
思わず俊の顔を見ると、
口パクで内緒といたずらげに笑われた。
うるさいくらいに今、
心臓がドキドキ鳴っている。
ウソついてるのに、俊ならって許しちゃうんだ。
……ダメだな、私。
どんどん甘くなってる。
ひとまず俊に助けられたのかな。
元はといえば、
遅くなったのは俊が原因でなんだけど。
私のせいにしないところは優しい。
でも、嘘はいけないかな。
料理担当だった亜莉朱ちゃんは余裕そうだけど、
接客担当の佐々木くんは見るからにヘトヘト。
でも疲れるまで頑張ったおかげで、
コスプレカフェは見事大成功に終わった。
ほとんどの料理が完売するほどの人気っぷり。
クラスの人たちも満足げに笑みをこぼしながら、
それぞれ片づけを始めていく。
床に倒れこんでいる佐々木くんに、
有無を言わせない視線を送る亜莉朱ちゃん。
2人とも行っちゃったけど、本当にいいのかな??
任せちゃっても。
いつの間にか俊は、私の手をにぎっていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。