オレンジ色にライトアップされた街路樹を、
手をつないで歩いていると、
ふいに恵里香に聞かれる。
僕は笑って答えたあと、ふたたび前を向く。
今日は、どうしても
連れて行きたかった場所があった。
そこはとなり街なんだけど、
恵里香の喜ぶ顔が見たくて、
できればサプライズで驚かせたい。
僕は胸をはずませながら歩いた。
その途中、
恵里香のほうを無遠慮に見つめていく
若い男たちが目につく。
話すチャンスを作るためか、
わざと肩にぶつかろうと
近寄ってくる男もいた。
そのたび僕は、恵里香を自分のほうに
ぐいっと引き寄せ、睨みつけながら
思いっきり威嚇した。
そんなことには気づかず、
となりの恵里香はクリスマス仕様の
ショーインドウを楽しそうに見つめている。
僕からしたら、恵里香のほうが
断然きれいなんだけど。
そんなことを思いながらしばらく歩いて、
目的地にたどり着くと、恵里香がぱぁっと
笑顔を輝かせてうっとりしたように前を見つめた。
僕が見せたかったのは、噴水広場に立っている
大きなクリスマスツリーだ。
今日が誰よりも楽しみだった。
恵里香のこの喜ぶ笑顔が見たくて、
この日のデートのために
何日も前から計画を立てていた。
自分のほうに恵里香を引き寄せて、
近くで見つめ合う。
そんな僕に恵里香が
あわてたような反応で離れようとするから、
抱きしめる手の力をぎゅっと強めた。
今日までどれだけ恵里香のこと、
我慢してきたか。
恵里香のほっぺたに手をそえて、
唇をゆっくりと重ねる。
香りつきのリップを恵里香はつけているのか、
かすかに甘いイチゴの味がした。
唇を離して、こつんとおでこをくっつけ合わせる。
僕の目に映る恵里香の笑顔は、
イルミネーションの光にも負けないくらい
キラキラとしていて、何秒もの間見とれていた。
いくら愛しても足りない、
今日もまた僕は恵里香だけに溺れていく。
恵里香の体温が僕の冷えた体を
すぐに甘くとかしてくれるから、
苦手な冬も悪くない。
そう思える、とくべつな今日だ──…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。