俊が出て行ったドアから視線をそらせず、
ずっと立ちつくしていると、
後ろで黒瀬くんが申し訳なさそうに
ぽつりと声をもらした。
そうあやまる声はひどく沈んでいて、
私はハッとなりながら、
黒瀬くんの方にふり返って首を大きくふった。
目を伏せながら、苦しそうに笑う黒瀬くん。
その無理した笑顔が、あまりにも切なくて、
胸の奥がきゅっと痛くなった。
私……
皆のこと傷つけてばっかだ……。
悲しげに笑う黒瀬くんに、
何も言えなくなる。
はい、と黒瀬くんが
いつもの優しい笑みを向けて、
テーブルに置いていた
私のスクールバッグを手渡してくれる。
さっきの重たい空気から切りかえるように、
明るくおちゃめにウインクを飛ばす黒瀬くんに、
私は甘えて、ぺこっと頭を下げてから図書室を出た。
廊下の窓に目を向けると、
くもった私の心とは対照的に、
美しい夕やけ雲が空を流れていた。
ぼーっとしながら
駅のホームまで向かい、
家に着いてからは、
自分の部屋に直行するなり、
制服も着替えずに、
そのままベッドで
朝まで寝落ちしてしまった。
そして翌日。
たくさん眠れたから、
いつもより早い目覚めだった。
その分、シャワーを浴びたり、
制服のシワもきれいに整えたりと、
用意にかなり余裕があって
よかったんだけど……
問題は、俊と同じ駅で電車を待つ今。
ものすごく気まずい雰囲気が流れていて、
居心地が悪くて仕方ない……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!