第14話

皆でプール掃除
1,703
2021/03/08 11:37
今はこいのぼりが青空に泳ぐ季節。


6時限目のチャイムが教室に鳴り響くと、
先生が黒板に何やら書き始めた。


そのまま書く手を目で追っていると、
チョークの音はとまり。


先生が少し横にずれて立つと、
黒板にはでっかく“プール掃除”という文字が。


えっ、うそ。
もうそんな時期だっけ。

先生
先生
来月の中旬くらいには、
プールが始まる。それでだな、
掃除をしてくれるヤツはいないか?

先生の言葉に周りを見渡すも、
誰ひとり手をあげている人はいなかった。


それもそのはず。
私の学校のプールは、
なぜか無駄に広くて大きい。


プールにお金をかけるくらいなら、
学校の建物に使ってほしいと
誰もがそう思っているはず。


そんなプールは今、そうだらけの緑色状態。


長く放置されていたからか、
すっかり汚れているの。


……だからなのかな、
やりたくない気持ちになるのは。

先生
先生
誰かやってくれよー、人数は無制限だ。


なんて先生がいくら呼びかけても、
クラスはしんと静まり返るばかりで、
決まる気配は全く感じられない。

先生
先生
分かった。
そんなにやりたくないなら、
先生が指名しよう。

ニヤリと口角を上げる先生に、
クラス中がいっきに血の気の引いた顔になっていく。


どうか指名されませんように……っ、


そう心の中で必死にお祈りをしながら、
なるべく先生と目が合わないようにするけれど。


先生
先生
渡辺、山本………
山本恵里香
山本恵里香
(……えぇ!?な、何で、私まで!?)

目を合わせない作戦は、
あっけなく失敗に終わってしまう。
渡辺俊
渡辺俊
ちょっと先生。
先生
先生
ん、なんだ。渡辺。

後ろでガタッとイスから立ち上がる俊。
それに対して、先生はニンマリとした笑みで見つめ返す。
渡辺俊
渡辺俊
なんで僕が、プール掃除なんてやるのさ。
先生
先生
おいおい、指名されたんだぞ。
もっと喜べー

もうこの話はこれで終わりというばかりに、
先生は黒板の字を消し始めていくから、
俊は腕を組んでもっと不満そうな顔になる。


でも、俊と一緒にできるなら
プール掃除も案外悪くないのかも。


そう考えた私は、こっそりと声をかけた。

山本恵里香
山本恵里香
頑張ろうね、俊
渡辺俊
渡辺俊
……恵里香がそう言うなら。

あきらめたような顔をして、
俊は静かにイスに腰をおろした。


良かった、納得してくれたのかな。



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