今はこいのぼりが青空に泳ぐ季節。
6時限目のチャイムが教室に鳴り響くと、
先生が黒板に何やら書き始めた。
そのまま書く手を目で追っていると、
チョークの音はとまり。
先生が少し横にずれて立つと、
黒板にはでっかく“プール掃除”という文字が。
えっ、うそ。
もうそんな時期だっけ。
先生の言葉に周りを見渡すも、
誰ひとり手をあげている人はいなかった。
それもそのはず。
私の学校のプールは、
なぜか無駄に広くて大きい。
プールにお金をかけるくらいなら、
学校の建物に使ってほしいと
誰もがそう思っているはず。
そんなプールは今、藻だらけの緑色状態。
長く放置されていたからか、
すっかり汚れているの。
……だからなのかな、
やりたくない気持ちになるのは。
なんて先生がいくら呼びかけても、
クラスはしんと静まり返るばかりで、
決まる気配は全く感じられない。
ニヤリと口角を上げる先生に、
クラス中がいっきに血の気の引いた顔になっていく。
どうか指名されませんように……っ、
そう心の中で必死にお祈りをしながら、
なるべく先生と目が合わないようにするけれど。
目を合わせない作戦は、
あっけなく失敗に終わってしまう。
後ろでガタッとイスから立ち上がる俊。
それに対して、先生はニンマリとした笑みで見つめ返す。
もうこの話はこれで終わりというばかりに、
先生は黒板の字を消し始めていくから、
俊は腕を組んでもっと不満そうな顔になる。
でも、俊と一緒にできるなら
プール掃除も案外悪くないのかも。
そう考えた私は、こっそりと声をかけた。
あきらめたような顔をして、
俊は静かにイスに腰をおろした。
良かった、納得してくれたのかな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!