結局お姫さまだっこされた状態で、
保健室の前まで連れてこられると、
俊が片手でドアを器用に開けていく。
その姿に、胸がドクンと高鳴る。
……体つきは細いけど、
腕の力はやっぱり男の子なんだ。
中に入ると、先生の姿はなかった。
体をそっと長イスに降ろされる。
……それにしても、
保健室にふたりっきりって、
なんだか緊張しちゃうな。
シップを探してくれている
俊の横顔にふと目がいく。
一つ一つのパーツが完璧に整っていて、
どこを見てもカッコイイの言葉しか出てこない。
来る途中にすれ違った女のコたちも、
なんて、目をハートにさせながら
うっとり口にしていたっけ。
さすがは学園1のモテ王子。
俊が褒められるのは嬉しい半面、
彼女としてはモヤっともしちゃうけれど……。
となりに腰かける俊に言われ、
袖を半分だけまくり、腕を前にさしだす。
あの後、クラスから借りる時間もなくて、
俊のジャージを貸してもらって、
急きょ私だけ長袖で参加したんだよね。
私の手首をつかみながら、
俊がいきなり驚いた顔をする。
でもそう言う俊だって、
透き通った腕をしていて、
私よりも細くて数倍キレイだ。
その時に、きっと擦りむいちゃったのかも。
赤く腫れてはいるけど、
痛みはさっきよりも引いて
だいぶ楽だったりする。
床に強打したときの衝撃の方が、
全身に響いてツラかったからなぁ……。
申し訳なさそうに眉をさげる俊に、
私は笑って言葉を返す。
それよりも、俊が
“誰かの借りてこよっか”
そう言ってくれただけで、
本当に心が救われたんだ。
気まずい顔でうなずくと
俊がハァと深いため息をつく。
誰も、王子のことなんて嫌ったりしない。
でも、そのとなりにいる“お姫さま”は
いつだってターゲット。
“お姫さま”って表すぐらい、
私はけして美しくないけど。
王子様のとなりに並べば、
女のコたちから敵意を向けられる。
だから王子様とずっと一緒にいるには、
それに耐えなきゃいけない、
強い心と覚悟が必要になってくるんだって。
再度つよく思い知らされた。
少し涙ぐみながら答える私に、
俊は優しく目を細めながら
頭に手を置いてなでてくれる。
どんな痛みどめよりも、
俊の温かな手が一瞬で一番に
心をやわらがせてくれる気がした。
となりの王子様は今日も優しい、
私にはもったいないくらいに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!