第2話

桐山照史
954
2021/08/28 23:23
エレベーターの男
遠かったやろ〜


そう言って、部屋に案内してくれ、



冷たい麦茶を出してくれた。
あなた

いただきます…



喉が渇いていた私は、一気に飲み干す。


エレベーターの男
いい飲みっぷりやな。
もう一杯いく?
あなた

はい。

エレベーターの男
で、体調はどうなん?
あなた

あの、もしかして私が倒れた時…

エレベーターの男
俺が担いで会社まで運びました。
あなた

あっ…ありがとうございました。
でも、よく私の会社わかりましたね。

エレベーターの男
社員証ぶら下げてたやろ?
親父んとこの社員さんやったから。
あなた

親父!?

エレベーターの男
そや。
聞いてない?
あなた

いや、何も…
あの、もしかして、
社長の息子さんですか?

桐山照史
桐山照史
そやで。
桐山照史と申します。
あなた

えぇぇぇーーー!?

桐山照史
桐山照史
そんな驚かんでも。笑
あなた

なんで!?
なんで、こんなところに?

桐山照史
桐山照史
こんなとこって…いい所やで。
静かだし、食べ物うまいし、
近所の人はみんなええ人やし…
あなた

いや、そういう事じゃなくて、
ほら普通、後継ぐ!
みたいなのあるじゃないですか!

桐山照史
桐山照史
兄貴がおるしな。
あなた

えっ?

桐山照史
桐山照史
俺には親父、なんも言わんのよ。
あなた

そうなんですか…

桐山照史
桐山照史
自由人やからな。
俺はここで、流木集めて飯を食う!
あなた

はっ?

桐山照史
桐山照史
びっくりした?笑
冗談でやで。
あなた

はぁ…

桐山照史
桐山照史
ここな、知り合いの民宿やったんやけど、
訳あってやめてしもて。
だから、俺が継いでやろうかなって。
あなた

民宿…

桐山照史
桐山照史
親父に金借りて、ここ買ってん。
あなた

いつからここに?

桐山照史
桐山照史
住み始めて2年になるかなぁ。
あなた

2年!?お客さんは…

桐山照史
桐山照史
目の前に!
あなた

私だけ…ですか?

桐山照史
桐山照史
うわっ、その言い方!
傷つくわぁ〜。
あなた

あはは…

桐山照史
桐山照史
あっ!お腹減ってない?
ちょうどお昼やな…
うどんでも食べる?

男の人と2人きりで、2週間…



いくら社長の息子とはいえ、



ありえないよね…



まぁ、人は良さそうだけど…



様子見て…



帰ろうかな…


桐山照史
桐山照史
てか、めちゃくちゃ観察してるよね?
私、この男の人と2人きり!?
大丈夫かしら…って、顔に書いてあるで。
あなた

えっ!あっ、全然そんな思ってないですよ!
ほら、ただ、ここ静かだし、
1人で寂しくないのかなーって。

桐山照史
桐山照史
もう慣れたわ。
それにな、近所の人がええ人達なんよ。
助けられて育ってます。
あなた

そうですか…

桐山照史
桐山照史
あとで小さい子らが遊びにくんねんけど、一緒にど?
あなた

一緒に?

桐山照史
桐山照史
ほら、部屋いっぱいあるやろ?
遊びにくるねん。
あなた

はぁ…

桐山照史
桐山照史
あっ!うどん、うどん!
ちょっと待っててな。


そう言って部屋から出て行った。



待っている間、窓から外を眺めた。



庭を挟んで向こう側は、



小さな木々が生い茂っていて。



その向こう側は海で。



かすかに波の音が聞こえる。



とっても静かな場所だ。



部屋に入って来る風は心地よくて、



目の前の木々の葉音を運んでくれる。



ゆっくりとした時間が流れている…



でも、



不思議だ…



気のせいかもしれないけど、



懐かしい感じがする…



桐山照史
桐山照史
できたでー。
あなた

えっ!?2つ?

桐山照史
桐山照史
一緒に食べてもえ?
あなた

あっ!どうぞどうぞ。

桐山照史
桐山照史
俺な、うどんめっちゃ好きやねん。
あなたちゃんは?
あなた

あれ?私の名前…

桐山照史
桐山照史
覚えてない?
あなた

えっ?

桐山照史
桐山照史
俺ら、1回会ってんねんで。
あなた

エレベーターで…

桐山照史
桐山照史
いや、それは2回目や。
あなた

その前に?

桐山照史
桐山照史
そや。
じゃ、思い出せるまで、お預けな!
あなた

えっ!?

桐山照史
桐山照史
うそうそ!笑
冷める前に食べ!
あなた

いただきます…


1度会ってる?



どこで?



いつ?



こないだの夢もだけど、



思い出せないってイライラする…



桐山照史
桐山照史
おいしくない?
あなた

いや、まぁまぁ…

桐山照史
桐山照史
えっ!?まぁまぁ?
あなた

あっ!おいしいです!

桐山照史
桐山照史
ほんま?
あなた

んー麺しか入ってないし…

桐山照史
桐山照史
これがええねんで!
具があると邪魔やろ?
つるつるっていきたいやん!
おかわりもあるからいっぱい食べ。
あなた

あっ…ありがとうございます…

桐山照史
桐山照史
俺は2玉は余裕やで〜笑
あなた

へぇ…って、あの!
やっぱり教えてもらえませんか?

桐山照史
桐山照史
なに?
あなた

どこで会ったんですか?私たち…

桐山照史
桐山照史
会った場所?
ここです。
あなた

ここ!?

桐山照史
桐山照史
そや、ここ。
あなた

だから懐かしい感じがしたんだ…
いつですか??

桐山照史
桐山照史
小学生くらいやったかな。
あなた

小学生…記憶がない…

桐山照史
桐山照史
無理に思い出す事でもないで。
あなた

あの、知らなかったらいんですけど、
小林蓮って人知ってますか?

桐山照史
桐山照史
なんで?
あなた

こないだ桐山さんに会う前に変な夢見て…
知ってるかなーって。

桐山照史
桐山照史
よーく知ってるで。笑
あなたちゃんの夢にも出てきたんやなぁ。
あなた

あなたちゃんの夢にもって…
もしかして、桐山さんの夢にも?

桐山照史
桐山照史
来たで。結構前やけど。
あなた

誰なんですか?
小林蓮て。

桐山照史
桐山照史
覚えてない?
あなた

はい…

桐山照史
桐山照史
ここで3人でよう遊んだわ。
あなた

………

桐山照史
桐山照史
短い間やったけど、
ずっと一緒におってな。
あなた

て事は、小林蓮さんもここに泊まりに来てたって事ですか。

桐山照史
桐山照史
ここはな、蓮の家やってん。
蓮のおとんとおかんが民宿しとってな。
そこに俺の親父と、あなたちゃんのおとんが俺とあなたちゃん連れて泊まりに来たんや。
あなた

えっ…全然思い出せない!
でもなんで今更夢なんかに…

桐山照史
桐山照史
さっきも言ったけど、
思い出すほどのもんやないから。
さっ!お腹も膨れたし、行こか!
あなた

どこにですか!?

桐山照史
桐山照史
買い物。
子供ら来るからおやつと、俺らの食料もな。
あなた

いや、まだ食べたばっかだし…
ちょっとゆっくり…

桐山照史
桐山照史
ほら!もたもたせんと、
はよ行くで〜!

とてもせっかちな人だ…



でも、明るくて、おもしろくて、



安心感があるというか…



社長によく似ている笑



これから2週間、



なんとかやっていけそうな気がした。



プリ小説オーディオドラマ