第5話

ひまわり
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2021/02/04 06:08
「全員席つけー HR始まるぞー」

三月、ボク達3年生にとっては別れの季節。

それぞれの道へ進む。
少しでも大人にみられたくて背伸びしていたあの頃とは違い今では背丈も伸び、子どものような可愛いあどけなさはとっくの昔にどこかへ忘れてしまった。


「もうすぐ君たちも卒業。
やり残しのないようにやりたいことを全力でやってください。」


やりたいことを全力で。
自分は何がやりたいんだろう、今まで人間関係を保つのが苦手な自分が避け続けてきた 恋愛? 青春?


最高の思い出を残すと宣言した入学式から、三年間はあっという間に終わってしまい、やりたいことが見つかる前にボクも大人になってしまいそう。



「まふまふ、お前高校でたらどこ行く?」


「ん〜…まだそこまでハッキリとは、」


二年の頃偶然仲良くなった、「蒼音」通称そらるさんはいつも休み時間ボクの机まで来て話し相手になってくれる。

ボクが彼の話し相手になっているのかもしれないけど。


お互い過去に辛いことがあり、人との関わりを持つことに積極的ではなかった為 何も無い平凡でどこかつまらない学生時代を送っていたからかここまで深く関係を築いたお互いの存在は特別なものだった。


「そういうそらるさんはどうなんですか?」


「俺もあんま決まってないな〜、」


「卒業する実感も湧かないし、ただ楽に生きたいな」

「そらるさんらしいですね笑」

ほんとに彼らしい。

今思えばなぜ彼は周りからの評価が悪いのかと思ってしまうくらいいい人で、時々辛辣なことを言うけどそれは口下手なそらるさんなりのメッセージな訳で。


「そらるさ〜ん」


遠くで誰かがそらるさんを呼ぶ声がする。


「お〜天月〜」

「僕達ももう卒業ですね〜、卒業したら夢の国行きません?」

「え〜おれゆーえすじぇーがいい」

「そらるさんジェットコースターとか無理ですもんね」


僕達の数少ない共通の友人天月くんは誰にでも優しくて正に紳士のような人。
彼も過去に辛いことがあったらしくあまり深くまでは聞かなかったものの、過去の話に触れた時の表情が暗かったのは確かだ。


「んじゃあ、なるせくんとかも誘ってUSJ行くかー!」

「お、いいねぇ」

「男四人でぇ??」

「仕方ないよ、だって僕達だもの。」

「うぉー悲しいこと言うね天月くーん」

次から次へと増えて この人は先程天月くんが名前を出したなるせくん。
ボクは最近仲良くなったけど、時間なんて関係なく気さくに接してくれるなるせくんは愛されキャラで正直羨ましい。


「女子も誘っちゃう〜?」

「誘える女子なんか居ないだろ。」

「え〜みんな居ない感じ?」

「そりゃあ、ねぇ…」


何度も言うがただでさえ人間関係を保つのが苦手な僕達だ。 同性ともまともに話せない人が異性と話せる訳がなく、異性の友達なんて居ない。 自分で言うのはすごく悲しい。


男四人だけかぁ、 とみんなで悩む中ボクの記憶の引き出しから突如見覚えのある、でもはっきりとは思い出せない何かがこぼれた。














いつかは分からない
でも、ひまわりが襲ってくる そんな感覚がするのはボクの背丈がちいさいからだと分かる。




日差しも強く、どこかの森でセミの鳴き声がする。

どうやら夏らしい。



幼き頃の夏の思い出 と言ったらまだ小学校にあがる前くらいの時に一度 お母さんの実家にお邪魔したことがあった。


おじいちゃんはボクが生まれる前に他界してしまい出会ったことは無いけど、何度か飾られている写真を見て顔は知っている。

相当、おばあちゃんはおじいちゃんが大切だったということが家の中を探索するとひしひしと伝わっていた。



僕の傍にはしゃがんで泣いている女の子が居て、膝には小さな傷があった。



「大丈夫…?」


『痛い、』


「大丈夫?」『痛い』の繰り返し。
女の子は肩を震わせてないている

僕はどうすればいいのか分からず、ただ立ち尽くして 辺りを見渡した



「ねぇ、周りひまわり沢山で、綺麗だよ、!」



人見知りながら勇気を振り絞って放った言葉。



『ひまわり…?
わぁ、ほんとだぁ!』



女の子は先程まで泣いていたのが嘘かのように、周りのひまわりに負けないくらいの笑顔になった。



その笑顔はひまわりに向けられているのに、なぜか隣にいるボクがドキドキして、今思えばあれが人生で最初で最後の恋だったのかもしれない。



◇◇




『おわかれ、やだよ、』

「ボクも、やだ」


帰省中 ずっとひまわり畑に集まって一緒に沢山の自然に触れた

ボクたちは兄妹のように仲良くなり、家も近かったから、常に一緒にいた。


でもボクたち家族がここに居られるのは夏の間だけ、 もう帰らなければならなかった。

必然的に二人は別れ、その年の冬におばあちゃんは突然倒れて他界してしまった。


ボクはあれ以来あの子に会うことなく、成長した。


名前も、顔も、何一つ覚えてない。

ただ、覚えてるのは初めて会った時に見たひまわりのような笑顔だけ。







「まふまふ?おーーーい。」


「あってぇっ?」


「大丈夫かよ笑」


「んで、卒業したら男四人でUSJ行くでいいんだよね?」


「おっけ〜!」


思い出にふけていたらいつの間にか話し合いは終わっていて、結局USJに行くことになったらしい。



そんなことより、あの子は今 どこにいるんだろう。



今は春。


また夏が来る時に少しひまわり畑に行ってみようかな。


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