第11話

彼の職
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2021/05/27 03:49


カチャン
ノートン・キャンベル
(彼の初陣をどう切り抜けさせようか)
同時刻、あなたとは真反対の出陣ゲートで、ノートンは磁石で手遊びをしながら考えていた。




初めての試合は大抵皆椅子に縛られて脱落する。
ハンターを初めて見た衝撃と恐怖がトラウマになってしまうこともある。
(何百何千と繰り返さなければならないのだから、こればかりは慣れないと仕方がないのだが)


あなたが見つからないことが大前提だが、運良く見つからなかったところで、ノートン達だっていつまでも無事で居られるわけじゃない。


誰かがターゲットとなれば、そう長くはチェイス出来ない。




ノートン・キャンベル
ハンターも、新人が出ることはわかってるはずだ。
一体誰が来る...
芸者あたりであれば、気分が良ければ優鬼をしてくれるかもしれない。

マップは軍需工場。
幸いにも、チュートリアル向けの場所だ。

ノートン・キャンベル
とりあえず合流して、安全な場所の暗号機に連れて行く
(ウィラ・ナイエル)
あら。
貴方にしては、随分と新人に優しいじゃない
ノートン・キャンベル
...
そうだろうか。

色々と考えを巡らせていると、匂いに敏感な彼女の言葉が蘇り、思わずノートンは思考を止めた。




なんせ、最後に新人が来たのは、はるか昔だ。

それが誰だったか...どう関わったかすら、記憶に薄い。

てっきりもう誰も来ないのではないかと思わせる程には、時間は空いていたように感じる。


ガチャン!と着地を外した磁石が金具に飛びつく。



ノートン・キャンベル
深い意味なんて、ない

磁石を拾うと、ノートンはヘルメットを深く被り直した。







































あなた
どういうことだ、これ...
あなたが顔をしかめている理由。

それは手元に持つ無線機の画面が示す、自身のことについてだった。

無線機の見た目はひと昔前の折り畳まないガラケーを大きくしたようなものだ。
画面には、その右1/3に4つのアイコンとラインがひかれており、残りの真ん中から左側にかけては何も映されていない。

問題は、その右側の表示だった。

4つのアイコンはただ人を模ったもので、確かサバイバーの負傷状態などを表すと聞いていたものだ。
一方ラインというのは、それぞれサバイバーの参加者名で、Vera Nair(ウィラ・ナイエル)、Aesop Carl(イソップ ・カール)等と見覚えのある羅列だ。
そして、それぞれの名前の下に、【Embalmer(納棺師)】、【Perfumer(調香師)】と職業名が記載されている。






しかし、あなたの名前の下に書いてあったのは、
あまりにも想定外なーーーーーーーーーー
ーーーーーー『Hourglass craftsman(砂時計職人)』、という職業だった。


あなた
俺はそんな職じゃない。
誰が決めて入力したっていうんだ
まるで自分じゃないみたいだ。

あなたは混乱しながら画面を見つめる。


その様子を静かに見ていた小鳥ーーーもとい、ナイチンゲールが羽ばたいた。
あなた
コンコン、とナイチンゲールがあなたの腰に下げた砂時計をつつく。

あなたはそれに気が付くと、砂時計を持ち上げた。
あなた
まさか...これのことなんですか?
肯定するように、ピィ、と小さく鳴くナイチンゲールに、あなたはもう一度砂時計に視線を落とした。
あなた
私じゃなく、私の祖父ですよ。
貴女なら分かっているでしょう、ナイチンゲールさん
他の皆も、ここに来るまでの職業を引き継いで能力を得ていると聞いた。

本来なら自分は全く異なる職業のはずだ。


正直ナイチンゲールのことも、未だ受け容れるには難いが、皆に話で聞いた個々の「能力」ーーーそれらが実在するならば、先程目にしたマジックのような光景も納得せざるを得ない。

側から見れば小鳥に話しかける変人だが、通じているのだから、きっとそうなのだろう。
あなた
ねえってば
しかし、もうその話には答えたとでも言いたげに、ナイチンゲール(小鳥)は知らん振りをしている。
あなた
もう...。
私、ここからどうしたらいいんですか?
作れもしないのに、砂時計作れる人間なんですって言って、何が生まれるってんですか
ぶつぶつと文句を言いながら、あなたはドアの前に立つ。

他の3人はそれぞれ少し離れたゲートに移動していて、姿を見ることは出来ない。
そこまで遠くではないはずから、声だけは聞こえているかもしれない。

不気味な奴だと思われているかもしれないし、そうでなくても緊張でおかしくなったと思われているだろう。
実際怖くてたまらないのだからそれでも構わないくらいだが。

しかし、そんなことを考えているあなたをさらに驚かせるように、当然パリン!と頭上から鋭い物音が響いた。
あなた
うわっ!何!?
思わずのけぞり、天井を見上げる。

しかし何かが割れたり、壊れているわけでもない。
あなた
...何なんだほんとに....。

あっ

恐る恐る前を向き直したあなたが息を呑む。








目の前のゲートが、開いていた。








あなた
.....
大きく深呼吸して、あなたは無線機を握りしめる。

そして、ゆっくりとドアを跨いだ。
あなた
ひ、広い...
中は想像していたよりも遥かに広く、先程まで近くで待機していたはずの他のメンバーは見当たらない。

先程はゲートなどの障害物で姿こそ見えなかったが、こんな開けた場所に出てくれば互いのことが見えてもおかしくないはず。
あなた
だから、あの人は初手位置を送れって言っていたのか
これもマジックなのだろう。
或いは、隔離されたゲーム盤特有の領域か。

背後を振り返ってみれば、出てきたドアはいつの間にか消えており、ただ擁壁があるだけで、あなたは既に絶望感を覚えた。
あなた
...と、とりあえず居場所を
目眩すらしそうな異世界の中、あなたはそう小さく呟いて、無線機を取り出す。

通話できる状況外ではチャット発言により連絡を取ることができると聞いていたが、無論文字を打てるようなボタンは見当たらない。
電源ONとOFF、数字、音量、左右上下ボタンーーーーまだ周りにはいくつかボタンがある。

『C』と書かれたボタンが目に止まり、あなたはそれを迷いながらも押そうとした。




その瞬間だった。

あなた
ーーーーーっ
どくり。

心臓が、イヤな音を立てた。

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