あれから数日後
未だに薬は見つかっていない
ふと、浮かんだ疑問。
『この人、私がどっか行ったらどうするんだろう』
素朴に気になったのだ。
頭があまり働かなくなる、今は自分が何を言っているのかさえ分からない。
そんな言葉は紅丸に聞こえる筈無かった。
そう言って、待てと引き留める声をも無視してその場を去った。
◆◆◆◆◆
扉を開け、礼をし、ありがとうございましたと途中まで言った瞬間
「オイ」
たったったっと軽快に走る。
タンッと足に力をいれ、電信柱の上に乗ると
下で紅丸の声が轟く
しかし、そんなことはお構い無しといわんばかりに響はひたすら逃げる
息切れが起きない。
自分の体に違和感を覚えたため、一度地上に降り、狭い裏路地を歩く。
だがガシッと腕を捕まれてしまった。
唐突に怒鳴られたからか、頭を抱え屈みこむ
しかも全て演技である
ガッツリ心療内科である
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その日から二人が言葉を交わす事は殆ど無くなった
なんて考えたりもするが、やはり謝りに行くのは気が滅入る。
その時。
急な吐き気と血の匂いが身体中に回った
血が溢れでる。
誰も助けに来るはずがない
まず、あの喧嘩もどきの蟠りが体に負担をかけたのだろう。
簡単に戻れる、そう思うと血が出ても全然辛くなかった。
だけど、気持ち悪い感覚が響の意識を奪い取るようにぐるぐる回る。
一向に血がおさまらない、このままじゃ確実に死ぬ
どうしようどうしよう、そんな言葉ばかり頭を悩ます、誰か、誰か助けてと思うが、誰も来る筈はなかった。
夕刻
鐘の音が響いている。
血だまりを拭き取り、涙も取っていく。
お風呂に入り、髪を乾かす。
涙痕も一緒に流していってしまう。
お風呂場を出て、服を着替え、脱衣場を出るとそこには
…いつも安心させてくれる、声が聞こえた。
──フリーズ──
鼻を塞がれる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!