無料ケータイ小説ならプリ小説 byGMO

第18話

最後のお願い
12月。

少しずつクリスマスの準備が始まる。

毎年のようにエントランスにはいろんな飾り付けが毎日チマチマと付け足され、最後には3メートルほどのクリスマスツリーが用意される。

一方、小児病棟ではみんなが集まれるキッズルームに2メートルほどのツリーが飾られ、子供達が出し物を考える。

長期入院で最年長はみどりちゃんだから、みどりちゃんをリーダーとしてみんなでいろいろ考えることになった。


みどり
みどり
何にするー?
男の子
DSやろうよ!!
みどり
みどり
それはまずいわー(笑)
大人の前でみんなしてマリオ動かすわけにいかないでしょう?(笑)
女の子
おままごとしよー?
みどり
みどり
それもまずいわ〜(笑)
一般病棟の人たちの前でみんな、おままごとしだしたらどう思う⁉︎(笑)
一斉に大爆笑が起こる。

実はみどりちゃんは、盛り上げるのも上手だ。

女の子
…みどりちゃん、歌ったら?


一斉に部屋が静まり返った…。
雛子
雛子
…歌えるの?
みどり
みどり
やだぁ〜!
恥ずかしいでしょ〜⁉︎
再び部屋は笑いに包まれる。
雛子
雛子
…ねぇ、歌えるの?
そしてまた、部屋は静まり返る。
みどり
みどり
…。
…まぁ、下手じゃないってだけだよ?
女の子
え〜、すごい上手だったじゃーん!!
「そうだよ〜!」と入院歴の長い子たちが口々に言う。
女の子
だってみどりちゃん、入院する前は合唱部だったんでしょー?
みどり
みどり
こらっ!余計なこと言わない!
雛子
雛子
…そうなの?
みどり
みどり
まぁね…
女の子
ねぇー、歌ってよ〜
看護師さん
いいんじゃない?
みどりちゃん歌いなよ〜
こっそり見ていた何人かの看護師さんが口を挟む。
女の子
ほら〜、〇〇ちゃん看護師さんも言ってるよ〜?
みどり
みどり
…じゃあ、一曲だけなら



「やった〜!!」

みんなが言って部屋の中は騒がしくなる。

その時、みどりちゃんが私の方をちらっと見た。
みどり
みどり
後でお話ししよ。
雛子
雛子


みどりちゃんは日頃から、誰かが不満や不安を感じていると、2人だけでお喋りして、その不満や不安を吐き出させる人だ。




そして部屋に戻ると抗がん剤の副作用がひどくて、ルームに来れなかったかえちゃんが待っていた。

かえ
かえ
どうなったの?
みどり
みどり
うん、だいたいは決まった!


無理矢理みどりちゃんが笑顔を作る。


私は「みどりちゃんが歌が上手だ」というのを知らなかったことが嫌だった。

みどりちゃんのことがとにかく大好きだったから、「自分は知らないのに他の子は知ってる」ということに嫉妬していたのかもしれない。

みどり
みどり
ちょっとガーデン屋上行ってくるね!
かえ
かえ
分かった〜


かえちゃんにそう言うとみどりちゃんは、「雛子ちゃん、行くよ。」と言ってスタスタと部屋を出て行った。私は慌てて追いかける。

「行くよ」っていうあの言い方は、とてもしっかりしていて、でもなんだかぶっきらぼうな感じもして…

みどりちゃんにあんな言い方をされるのは初めてだったから、ちょっとびっくりした…。













ガーデンに行く間のエレベーターはとても静かだった。

お互い無言だったんだ…。

「ピンポーン、10階です」

エレベーターの到着音がいつもより大きい気さえした。




屋上に出た私たち。

静寂を最初に破ったのは私だった。



雛子
雛子
…合唱部だったの?
みどり
みどり
うん。
雛子
雛子
合唱部、楽しかった…?
みどり
みどり
うん。


みどりちゃんは合唱部にいた時の事を楽しそうに語ってくれた。

嬉しい事。大会での悔しい思い。合宿の楽しさ…

…そして、「合唱をするためだけにその学校に入ったこと」。

「合唱が自分の生きがいだったこと」。

「合唱に人生を捧げてきたこと」。

合唱部が有名な私立中学に合格したものの、結局通うことは叶わなかったこと。

本当にたくさんの、「合唱への思い」を教えてくれた。



みどり
みどり
ねぇ、雛子ちゃん、お願いがあるんだけど…
雛子
雛子
何?
みどり
みどり
もしも…
もしもだよ?
もしもの話なんだけど…
雛子
雛子
うん…
みどり
みどり
あのさ…
私が死んで、そのあと雛子ちゃんがまだ生きてたら…
雛子
雛子
何それ。
なんでそんなこと言うの(怒)
みどり
みどり
お願い、最後まで聞いて…?
雛子
雛子
みどり
みどり
まだ、雛子ちゃんが生きてたらさ…





みどりちゃんは、そこまで言うと泣き崩れてしまった。




雛子
雛子
泣かないで…?
ちゃんと聞くから。
みどりちゃんはコクンと小さくうなずき、言葉を続けた。
みどり
みどり
…もし、私が死んで、雛子ちゃんがまだ生きてたら____。






お互い、涙が止まらなかった。

ガーデンで空がオレンジ色になるまで泣いた。

何も言わなかった。

何も言えなかった。





だってみどりちゃんからのお願いは…































































































ーー私の代わりに合唱部に入ってほしいーー




だったから…。