傑山宗俊の朝は早い。
漆喰の壁に木の戸。高い建物に挟まれるように和菓子屋「龍潭堂」はあった。
師匠から店を受け継ぎ、
この現代社会でもなんとかやっていけている。
今日もお客さんが来る前に、菓子たちをガラスケースに並べなければならない。
一通り菓子が出揃ったところで、カラカラと戸が開く音がした。
こんな時間に来る人物は決まっている。
まだ少し暗い店内でもよく分かる凛々しい顔立ち。
薄く浮かんだ笑みは美しい以外の何物でもない。
傑山も、元は井伊道場の道場生。
武芸において優秀であったが、ここの菓子に感銘を受け、先代に弟子入りしたのだ。
いまだに菓子作りを監視してくる先代は、会話をしてまた奥へ引っ込んだ。
左側のガラスケースには、美しい練りきりが置いてあり、月ごとに種類を変える。ここが出来てからの自慢だ。
そこまで言うと、考えるように口を結んだ。
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広場吹き抜けのベンチで新たな策略を巡らせていると、頭上からあなたが声をかけた。
不機嫌な顔をしたあなたにまた笑いながら、渡された包みを開ける。
小さな黒い箱にちょこんと居座った綺麗な二つの練りきり。
珍しく仄か輝いていた黒田の目は、すぐに戻った。
黒田が指差したのは左の練りきり。
右は雪の模様、左は…
勿論黒田が引っ掛かっているのは、「自分がうさぎに似ているのか」ということだ。
そんな風に思われていたのかと結構なショックを受けている黒田に、あなたはさも同然という顔をしている。
それだけ言うと、前田と棒術の練習をしに行った。
もう一度手元の練りきりに目を移す。
一応和菓子切が添えられているが、自分をイメージしたものを切り裂くのもどうだろう。
まぁ、貰ったからには食べなければいけない。
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今日もにぎやかだったな、と思いながら銀杏高校を後にする黒田。
手には例の練りきりが入っていた包みがある。
ふと視界に入ったのは、白い壁と木の戸の和菓子屋。
自然と足がそちらに向かう。
店に入ると、店主が出てきて注文を聞く。
黒田は、目に止まった白い花を指した。
白寒椿『申し分のない愛らしさ』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。