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第3話

私が変わらなきゃ
講師
講師
あ、天羽さん。
このプリントのコピーとホッチキス止め、二十部頼めないかな?
天羽 栞
天羽 栞
分かりました。
終わったらどちらに?
講師
講師
私のデスクに置いてもらえれば……!
助かる~!

仕事があった方が、気分も紛れる。


黙々と雑務をこなしていると、玄関が開いて誰かが入ってくる足音がした。


コピー機から顔を上げて振り返ると、事務室のガラス戸の向こうにあおいくんが立っている。


彼は、類さんの八つ下の弟だ。

天羽 栞
天羽 栞
蒼くん、どうしたの?
高比良 蒼
高比良 蒼
兄貴、家に財布忘れたって。
渡しといて

私がガラス戸を開けるなり、蒼くんは類さんの長財布を押し付けるようにして渡してきた。
天羽 栞
天羽 栞
これ貴重品だから、蒼くんが直接渡したほうが……。
もうすぐ授業も一旦終わるし、待ってたら?
高比良 蒼
高比良 蒼
俺が預けるのは見知らぬ相手じゃなくて、栞なんだから大丈夫だろ。
それに俺、これからバイトだし、時間ない
天羽 栞
天羽 栞
えっ、でも……

蒼くんは軽く笑って財布を手放すと、さっさと帰って行った。
天羽 栞
天羽 栞
う、う~ん……。
信用してくれているのは嬉しいけど……

終業のチャイムが鳴り、帰り支度を済ませた小学生たちが徐々にクラスから出てくる。


一日の中で一番賑やかな時間だ。

塾生
塾生
先生、さよならー!
高比良 類
高比良 類
ああ、気をつけて帰ってね

類さんは受け持ちのクラス全員が帰るのを見届けた後、事務室に入ってきた。

高比良 類
高比良 類
ああ、栞、今日はシフト入ってたんだ?
天羽 栞
天羽 栞
は、はい……!
お疲れさまです。
あの、蒼くんが高比良たかひら先生のお財布を持ってきました
高比良 類
高比良 類
あ!
あいつ、なんだかんだ言いながら持ってきてくれたのか。
ありがとう、蒼にも礼を言っとかなきゃな

しどろもどろになりながら財布を手渡すと、類さんは目尻を下げて、嬉しそうに笑う。


一方で、私は茜とのことを思い出してしまい、うまく笑みを作れない。
高比良 類
高比良 類
……何かあった?
天羽 栞
天羽 栞
いえ、大丈夫……です

類さんは、観察眼に長けている人だ。


そうやってはぐらかしても、きっと気付いてしまう。

高比良 類
高比良 類
栞がそうやって濁す時は、大体何かあった時なんだけどな
天羽 栞
天羽 栞
(やっぱり、勘付かれてる……)

こういう時、類さんは深く踏み込んでこようとはせず、こちらから話すのを待ってくれる。


自力で解決できそうにない時だけ、今までも頼らせてもらっていたけれど、今回は絶対に言えない。
高比良 類
高比良 類
困ったことがあれば、俺に話せる範囲でいいから、言ってね
天羽 栞
天羽 栞
……はい。
ありがとうございます

類さんはふわりと笑って頷き、夜の部の授業の準備に取りかかった。


他のクラスの講師たちも戻ってくると、事務室の中が一気に慌ただしくなっていく。


私はひとり黙々と作業をこなしながら、今後のことについて考えた。
天羽 栞
天羽 栞
(このままじゃ、何も変わらない。
私、真剣に頑張らないと……)

類さんとは、二年前まで講師と生徒という関係だった。


いくら近所に住む親しい間柄とはいえ、彼が教え子に手を出すといった変な噂を立てられてしまうのが怖くて、一歩が踏み出せなかった。


でも今は、私も成人して、類さんに近づこうと思えばできたはずなのに。


楽な方にばかり、逃げていただけだ。
天羽 栞
天羽 栞
(私が変わらなきゃ。
でも、どうやって……?)

こういう時、どうアプローチするのが正解なのだろう。


茜が常々言っていたのは、「食事とか買い物とか、何でもいいからとにかく誘ってみればいいのに」というアドバイス。
天羽 栞
天羽 栞
(類さん、ただでさえ忙しいのに……乗ってくれるかな?)

けれども、まずは行動あるのみ。



【第4話へつづく】