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第5話

高比良兄弟

私がある程度の年齢になるまで、母は仕事をセーブして、夜は毎日家にいるつもりだった。


けれど、祖父の急逝に伴って、どうしても母が塾長になるしかなく、父も責任ある立場ゆえに仕事を抜けられない。


そのうえ二人とも、仕事からの帰りがほとんど深夜零時を過ぎる。


だから、私は幼少から十歳までの間、夕方以降は隣の高比良家でお世話になっていた。


夕食と入浴は高比良家で済ませ、眠っている間に天羽家に連れ帰られるというのが毎日の流れだ。



ひとりっ子の私には、七歳上の類さんと、ひとつ下の蒼くんの存在が新鮮だった。


一緒に過ごすうちに、徐々に兄弟のように打ち解けた。


類さんは小学生だった当時から本当に優しくて、私が恋を自覚するのに、そう時間はかからなかった。
天羽 栞
天羽 栞
……あ。
そういえば、蒼くんって最近元気?
高比良 類
高比良 類
元気、元気。
早く一人暮らしするんだって言って、バイトの掛け持ちばっかりしてる。
大学の講義はちゃんと出てるのか心配だけど。
ま、蒼のことだから自分でどうにかするだろうね

会話の流れで、ふと蒼くんのことを思い出した。


類さんの弟である蒼くんは、素直で泣き虫で、兄と同じくらい優しい子――だったけれど、中学に上がったくらいから、ぶっきらぼうでやんちゃな感じになっていった。


それでも、なぜか天羽塾だけは、休まず真面目に通っていた。


学年が違うから頻度は少ないけど、私も会う度に簡単な会話くらいはしていた。



そして今年の春、蒼くんがここより少し遠い大学に通うようになってからは、あまり顔を見ていない。


たまに、家の前でばったり会う程度。


数日前、類さんの財布を塾に届けにきた時が、多分一ヶ月ぶりくらいだ。
高比良 類
高比良 類
……相談って、もしかして蒼のことだった?
天羽 栞
天羽 栞
え?

類さんにそう聞かれて、私は何のことか分からずきょとんとする。


よく思い出してみると、類さんは「何でも相談に乗る」と言ってくれていた。


今日のこの食事も、私から何らかの相談があると思って引き受けてくれたはずなのに、すっかり忘れていたのだ。

天羽 栞
天羽 栞
ち、違うの! 違うんです!
今のは話の流れで気になって……
高比良 類
高比良 類
ああ、そうなんだ。
俺の早とちりか……。
じゃあ、相談って?
天羽 栞
天羽 栞
えーっとですね……

慌てて否定したのはいいものの、代案が浮かばない。


『茜と好きな人が被ってしまって、その好きな人に告白したいけどできない』なんて、口が裂けても言えるはずがない。


どうにか頑張って捻り出し、思いついたのは――。
天羽 栞
天羽 栞
あの、大学の学科の飲み会とか、私、全然参加してないから。
講義中のグループワークでも取り残されがちで……。
高比良 類
高比良 類
あらま
天羽 栞
天羽 栞
それが嫌だとかはないんだけど。
将来のことを考えると、大学の飲み会とか集まりって、ちゃんと参加した方がいいのかな?
高比良 類
高比良 類
あー……なんか、分かる。
大学生らしい悩みだな……

でまかせではなく、事実。


ほとんどの講義は茜もとっているので、ハブられても茜が間を取り持ってくれてはいるけれど、他の子たちの輪に入っていくのは楽ではない。


地味に悩んでいたことではあったので、聞けてよかったかもしれない。
高比良 類
高比良 類
栞の気が乗らないなら、無理して参加することないと思う。
社会に出たら、人付き合いなんてものは嫌でも経験することになるんだから。
まだ自由な大学生のうちは、好きなことをする時間につぎ込んだほうがいいよ
天羽 栞
天羽 栞
なるほど……。
すごく納得できる。
類さん自身は、大学生の時どうだったの?
高比良 類
高比良 類
まあ、俺はほどほどに顔は出してたかな。
さっきと言ってることは逆になるけど、学生のうちにしか味わえない、独特の雰囲気もあるからさ。
それもそれで勉強にはなる。
その場で初めて話すやつもいるし
天羽 栞
天羽 栞
……!

つまりは、どちらを選んでも私にとってマイナスにはならないということ。


類さんらしい答え方だ、と思った。


【第6話へつづく】