まずは引っ込み思案な性格をどうにかしたい。
茜に頼らず、自分でできることから始めようと思った私は、ずっと避けてきた飲み会やイベントといった学生の集まりに、参加することに決めた。
週末の居酒屋にて。
同級生も、先輩たちも、雰囲気が変わってきた私に興味を持っていた。
遅めの大学デビューみたいなものとして、歓迎してくれたのだろう。
学科が同じでひとつ上の、名前すら知らない先輩が、私の左隣に座った。
今まで話したことはほとんどなかったはずだけど、もう私を名前で呼んでいる。
かと思いきや、彼が肩を寄せてきて、私は咄嗟に身を後ろに引いた。
お酒だって、無理して飲みたくないのに、みんながどんどん勧めてくるから断れない。
飲めない人たちは、いつもどうしているのだろう。
答える義務はあるのだろうか。
いると言えば、どんな相手か聞かれるだろうし、いないと言えば嘘になる。
とりあえず、この場をしのぎたくて、私は嘘をつくことにした。
名前も知らない相手にそんなこと言われても、首を傾げるしかない。
答えに困っていると、先輩は私の左手に手を重ねてきた。
その気持ち悪さに、すぐ手を引っ込める。
先輩は本当に反省しているのか分からない口調で、へらっと笑った。
みんながはしゃいでいて、そのノリについていけない。
帰りたい気持ちを押し殺して座っていると、誰かが後ろから私の肩を叩いた。
びっくりして振り返ると、そこにいたのは茜だった。
その顔を見て、ほっとする自分がいる。
同じ場所に茜がいてくれて、よかった。
外に出て、私はようやく息を吐くことができた。
茜の言うことも、彼女らしい優しさも、分かっているしありがたいと思う。
でも、私が変わろうとしなければ変われない。
それだけは確かだ。
あまり関わりのなかった同級生や先輩たちと会話をすることで、新しい世界も広がると思っていた。
けれど現実は、自分を押し殺して我慢している。
こんなのは、「私らしい私」じゃないのかもしれない。
【第8話へつづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!