あまり長居はせず、お酒もほどほどに、私たちは食事を終えた。
類さんは伝票を掴んで離さなかったけれど、私も強引に自分の食事代は払った。
そうでないと、次回から誘いにくくなる。
店を出た直後、そう言いかけたところで、類さんが先に私を振り返る。
類さんは、昔から人より何でもそつなくこなしてしまう。
一方で、私や蒼くんはどちらかと言えば不器用で、努力してやっと人並みにできるようになることが多い。
蒼くんは、塾や自宅以外の場所で特に、類さんと比較されて育ってきた。
そんな蒼くんに対して、類さんは見守る姿勢を貫いていて、何も強制はしない。
蒼くんがやんちゃになった経緯も、二人の付かず離れずの距離感も、私は分かっているつもりだ。
一方で、私と蒼くんを同じように捉えている類さんに、ショックはあった。
もしかすると、類さんに女の子として意識してもらえない原因は、私に魅力がないから?
***
――もっと、女の子としての自信を持ちたい。
そういう思いから、私は自分磨きを決意した。
茜に助言をもらって、私に似合うテイストのファッション雑誌を買い、それで紹介されていたショップに行きに行き一週間分のコーディネートを揃えた。
メイクは雑誌に載っていたものや、動画サイトで人気のものを参考に勉強。
小学生の頃から常に眼鏡を着用していたのを、眼科に行き、コンタクトレンズに変えた。
茜が通っている美容室で髪を整え、手入れの方法も併せて教えてもらった。
茜が褒めてくれる鏡の中の自分が別人みたいで、張りぼてに見えてしまう。
でも、外見を変えるだけで、少しだけ自信がついた。
次は、中身も変えていかなければ。
***
がらりと雰囲気の変わった私を見て、事務室のおばちゃんや女性講師たちが集まってきた。
なんだか照れくさい。
社会人になると出会いが減るとは聞くけれど、類さんに今、恋人がいないのが本当に救いだ。
この姿になってから、類さんに会うのは今日が初めてだ。
小学生の授業が終わって、いよいよ二階から類さんが降りてくる。
類さんは事務室に入ってくるなり、目を丸くして立ち止まった。
その言葉が聞けてほっとしたのと同時に、少し残念でもあった。
恋をする私は強欲なもので、「可愛い」という一言を、誰よりも類さんから聞きたかったのだ。
それが何よりも、大事なことのように思う。
【第7話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。