無料ケータイ夢小説ならプリ小説 byGMO

第6話

可愛いって言ってほしい
あまり長居はせず、お酒もほどほどに、私たちは食事を終えた。


類さんは伝票を掴んで離さなかったけれど、私も強引に自分の食事代は払った。


そうでないと、次回から誘いにくくなる。
天羽 栞
天羽 栞
(「これからも、たまにはこうして食事しませんか」って、誘うんだ、私……!)

店を出た直後、そう言いかけたところで、類さんが先に私を振り返る。

高比良 類
高比良 類
そうだ、栞。
蒼とも、たまにでいいから話してやってくれないかな。
大学生にもなれば、身内に言われたくないこととか、相談できないこととかあるだろうし
天羽 栞
天羽 栞
えっ、私が、蒼くんと?
高比良 類
高比良 類
うん。
あいつ、栞には結構心を開くからさ。
あいつも、栞みたいにもっと相談してくれると嬉しいんだけどな……
天羽 栞
天羽 栞
そう、だね。
分かった

類さんは、昔から人より何でもそつなくこなしてしまう。


一方で、私や蒼くんはどちらかと言えば不器用で、努力してやっと人並みにできるようになることが多い。


蒼くんは、塾や自宅以外の場所で特に、類さんと比較されて育ってきた。


そんな蒼くんに対して、類さんは見守る姿勢を貫いていて、何も強制はしない。


蒼くんがやんちゃになった経緯も、二人の付かず離れずの距離感も、私は分かっているつもりだ。


一方で、私と蒼くんを同じように捉えている類さんに、ショックはあった。
天羽 栞
天羽 栞
(やっぱり、妹扱いか……。
いつもどこかで、こうやって線を引かれてるな)

もしかすると、類さんに女の子として意識してもらえない原因は、私に魅力がないから?



***



――もっと、女の子としての自信を持ちたい。


そういう思いから、私は自分磨きを決意した。


茜に助言をもらって、私に似合うテイストのファッション雑誌を買い、それで紹介されていたショップに行きに行き一週間分のコーディネートを揃えた。


メイクは雑誌に載っていたものや、動画サイトで人気のものを参考に勉強。


小学生の頃から常に眼鏡を着用していたのを、眼科に行き、コンタクトレンズに変えた。


茜が通っている美容室で髪を整え、手入れの方法も併せて教えてもらった。
天羽 栞
天羽 栞
うわあ……。
これが、私?
敷島 茜
敷島 茜
うん、いいじゃん! 可愛い~!

茜が褒めてくれる鏡の中の自分が別人みたいで、張りぼてに見えてしまう。


でも、外見を変えるだけで、少しだけ自信がついた。


次は、中身も変えていかなければ。



***


事務員
事務員
あら~。
栞ちゃん、なんだか急におしゃれさんになったね
講師
講師
ほんとですよ!
天羽さん、綺麗になりましたよね
事務員
事務員
服も今の方が似合ってるよ
天羽 栞
天羽 栞
あ、ありがとうございます……

がらりと雰囲気の変わった私を見て、事務室のおばちゃんや女性講師たちが集まってきた。


なんだか照れくさい。

講師
講師
彼氏でもできたんですか?
天羽 栞
天羽 栞
かっ……!?
い、いえ、違います
事務員
事務員
あー、じゃあ好きな人だね!
講師
講師
いいなー、大学生! 青春!

社会人になると出会いが減るとは聞くけれど、類さんに今、恋人がいないのが本当に救いだ。

天羽 栞
天羽 栞
(類さんは、何て言うかな……)

この姿になってから、類さんに会うのは今日が初めてだ。


小学生の授業が終わって、いよいよ二階から類さんが降りてくる。
天羽 栞
天羽 栞
お疲れさま……です
高比良 類
高比良 類
び……っくりした。
栞か

類さんは事務室に入ってくるなり、目を丸くして立ち止まった。
天羽 栞
天羽 栞
あの、変ですか?
高比良 類
高比良 類
ううん。
雰囲気が変わって一瞬分からなかっただけ。
似合うよ

その言葉が聞けてほっとしたのと同時に、少し残念でもあった。


恋をする私は強欲なもので、「可愛い」という一言を、誰よりも類さんから聞きたかったのだ。

天羽 栞
天羽 栞
(外見だけ変えても、中身が伴わなきゃ……そりゃダメだよね)

それが何よりも、大事なことのように思う。


【第7話へつづく】