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第4話

其の参
1,275
2021/08/07 16:30
結局探偵社入社が決まってしまいました。上田あなたです。


まあ私の異能危険だからなぁ…居場所分かれば特務課も引っ捕らえようとするよなぁ……。


一般人という中立的立場から白に回ってしまった…クソ!!!!!


ナオミ「うふ、よろしくお願いしますわ」


谷崎「い、痛いそこ痛いってばナオミごめんごめんって!」

___谷崎潤一郎__能力名『細雪』



今後どうするか考えている私の隣で、敦くんがドサッと尻もちをつく。


敦「ぼ、僕等を試す為だけに……こんな大掛かりな仕掛けを?」


太宰「この位で驚いてちゃ身が持たないよ?」


うわ……暗黒笑だ太宰さん……。


敦「いやいや!こんな無茶で物騒な職場僕、無理ですよ!」


太宰「おや、君が無理と云うなら強制は出来ないね。となると、君が住んでる社員寮を引き払わないと。

あと寮の食費と電話の支払いもあるけど……大丈夫?」


それを聞いて敦くんはほろりと涙を流す。


私は同じように丸め込まれた敦くんに手を合わせる他なかった……。



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谷崎「すンませんでしたッ!」


時は流れ、現在探偵社下階の喫茶店「うずまき」で珈琲片手に谷崎の謝罪を眺めている。


…ここの珈琲美味ェ……。


敦「へ?」


谷崎「その、試験とは云え随分と失礼な事を」


敦「ああ、いえ、良いんですよ」


あなた「此処の珈琲値段と味が釣り合わない……美味……」


店主「はは、ありがとうございます。」


そう言って珈琲の豆を挽くマスター。ヤダイケメン……!


国木田「何を謝ることがある。あれも仕事だ国木田」


太宰「国木田君も気障に決まってたしねぇ」


『独歩吟客』!と、国木田を揶揄う。


国木田「ばっ……違う!あれは事前の手筈通りにやっただけで……」


あなた「手筈通りと云えばシチュエーション雑でしたねぇ」


太宰「あれは前日に決めたからね、ほぼアドリブさ」


国木田「ともかくだ小僧、小娘。貴様らも今日から探偵社の一隅。

故に周りに迷惑を振りまき社の看板を汚す真似はするな。俺も他の皆もその事を徹底している、なあ、太宰」


太宰「あの美人の給仕さんに「死にたいから首絞めて」って頼んだら応えてくれるかなぁ」


国木田「黙れ迷惑噴霧器」


わぁ辛辣!


谷崎「ええと……改めて自己紹介すると…僕は谷崎。探偵社で手代みたいな事をやってます。

そンでこっちが……」


ナオミ「妹のナオミですわ!兄様のコトなら……なんでも知ってますの」


そう云って谷崎に引っ付く。それはもう凄い距離感!


敦「き…兄妹ですか?本当に?」


ナオミ「あら、お疑い?勿論どこまでも血の繋がった実の兄弟でしてよ……?

このアタリの躰つきなんてホントにそっくりで……。ねぇ兄様?」


敦「いや、でも……」


と云いかけた敦くんに「こいつらに関しては深く追求するな」と国木田が目で訴える。


二人の艶かしい雰囲気は少し苦手だ。私は内心は超赤面している。


初心だって?五月蝿ェ!生まれてこの方恋愛沙汰なんて遠い世界だったんだよ!前世も含めて!


敦「そういえば…皆さんは探偵社に入る前は何を?」


空気がシーンと静まる。


太宰「何してたと思う?」


敦「へ?」


太宰「なにね、定番なのだよ。新入りは先輩の前職を中てるのさ」


敦「はぁ……じゃあ……谷崎さんと妹さんは…学生?」


谷崎「おっ、中った。凄い」


ナオミ「どうしてお分かりに?」


敦「ナオミさんは制服から見たまんま。谷崎さんの方も__歳が近そうだし、勘で」


あなた「…じゃあ国木田さんは?」


国木田「止せ、俺の前職など如何でも__」


敦「うーん、お役人さん?」


太宰「惜しい、あなたちゃんは?」


私は少し間を置いて、ニコリと笑う。


あなた「教諭、数学の」


太宰以外がぽかんとした顔して私を見る。


まあ"友人"から探偵社の話は偶に聞くし……。経歴もそりゃ、ねぇ。


太宰「正解、彼は元学校教諭だよ。数学の先生」


敦「へえぇ!よく分かりましたね、あなたさん!」


国木田「昔の話だ、思い出したくもない」


太宰「じゃ私は?」


敦「太宰さんは……」


想像もつかん!と敦くんは私の顔を見る。が、すぐ戻した。


私が飄々とした顔だったからだろう。


国木田「無駄だ小僧、武装探偵社七不思議の一つなのだ。こいつの前職は」


谷崎「最初に中てた人に賞金があるんでしたっけ」


太宰「そうなんだよね、誰も中てられなくて賞金が膨れあがってる」


国木田「俺は溢者の類だと思うが此奴は違うと云う。しかしこんな奴が真面な勤め人だった筈が無い」


あなた「うわぁ、信頼皆無ですね太宰さん」


……にしても賞金か……賞金ねぇ……


敦「因みに賞金は如何ほど」


太宰「参加するかい?賞典は今___七十万だ」


それを聞いて金の亡者人虎くんは荒々しく立ち上がる。


敦「中てたら貰える?本当に?」


太宰「自殺主義者に二言は無いよ」


敦「勤め人」

太宰「違う」

敦「研究職」

太宰「違う」

敦「工場労働者」

太宰「違う」

敦「作家」

太宰「違う」

敦「役者」


太宰「違うけど__役者は照れるね」


敦「うーん、うーん…あなたさんはどう思いますか?」


あなた「私?そうだねェ……」


顎に手を当てて太宰を見る。知ってるけど皆の前で云う訳にもいかないよね…。


あなた「…皆目見当もつかないよ、唯…気持の良いお仕事では無かったんじゃないですか?」


私の返答に、惜しいね、と笑った太宰の目には光が宿っていなかった。


国木田「本当は浪人か無宿人の類だろう?」


太宰「違うよ。この件で私は嘘など吐かない」


敦「…あなたさんは何のお仕事を?」


あなた「現役女子大生」


敦「え、じゃあ年上?!」


あなた「そうなるね、敦くんは…十八歳くらい?」


敦「せ、正解です!あなたさんは?」


あなた「二十歳。お酒飲めるよ、下戸だけど」


太宰「あ、あなたちゃん大学辞めなよ、探偵社員なんだから」


あなた「は?」


太宰はそう云うと立ち上がり、此処の支払いはよろしく、と店を出ていった。


私もそれを追う。


あなた「大学辞めるってのは聞いてないんですけど」


太宰「然し大学に君の異能狙いの特務課が押し寄せたら面倒だろう?

退学の手続き位さっさとしておき給え」


あなた「…頑張って過去洗って入学したのに…」


私の呟きに太宰は階段を登る足をピタリと止める。


太宰「……君は過去に何をしたのだい?」


あなた「私がした事は貴方に比べたら幼稚なものですよ…"元最年少幹部"さん?」


太宰「そんなに賞金が欲しかったかい?」


クスッと太宰は笑う。


あなた「後で振り込んでおいてくださいね」


太宰「…嗚呼、勿論さ、自殺主義者に二言は無い」



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探偵社に戻ると、そこに居たのはソファに座る金髪の女性。


なんでも依頼人らしい。


後から戻ってきた敦くんと谷崎兄妹、国木田さんとで、お話を聞く事になった。


依頼人「…………」


谷崎「……あの、えーと、調査のご依頼だとか。それで……」


と谷崎が言いかけた時、包帯まみれの自殺好き男が跪いて依頼人の手を取る。


太宰「美しい……睡蓮の花ごとき果敢なくそして可憐なお嬢さんだ…どうか私と心中していただけないだろ__」


太宰の頭に国木田の鉄槌が落ちる。


依頼人「なななな……」


戸惑う依頼人に国木田は頭を下げ、太宰を引きずって行く。


谷崎「あ、済みません。忘れて下さい」


別室に入っていく国木田と太宰を尻目に、それで、と依頼人は話を切り出す。


この空気でよく話し出せたな。慣れてるのか?


依頼人「依頼と云うのはですね、我が社のビルヂングの裏手に最近善からぬ輩が屯している様なんです」


谷崎「善からぬ輩ッていうと?」


依頼人「分かりません。ですが襤褸をまとって日陰を歩き、聞き慣れない異国語を話す者もいるとか」


国木田「そいつは密輸業者だろう」


太宰をコテンパンに懲らしめて部屋から出てきた国木田が云う。


国木田「軍警が幾ら取り締まっても船蟲のように湧いてくる。港湾都市の宿業だな」


依頼人「ええ、無法の輩だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから…」


国木田「現場を張って証拠を掴めか……」


国木田の視線が私と敦くんに飛ぶ。


国木田「小僧、小娘。お前等が行け」


敦・あなた「「ヘッ?!」」


国木田「唯見張るだけだ。それに、密輸業者は無法者だが大抵は逃げ足だけが取り柄の無害な連中……初仕事には丁度いい。」


敦「でっでも……」


国木田「谷崎、一緒に行ってやれ」


ナオミ「兄様が行くならナオミも随いて行きますわぁ」


国木田「小娘も、いいな」


あなた「はい、勿論です。頑張りましょうね」


そう言って私は依頼人と固く握手をした。


谷崎「じゃあ見張る為の準備をしようか、敦くん、あなたちゃん。」


医療品等が入っている棚の傍で敦くんと準備をしていると、国木田が話しかけてくる。


国木田「小僧、小娘。不運かつ不幸なお前等の短い人生に些かの同情が無いでもない。故にこの街で生き残るコツを一つだけ教えてやる」


と、懐から手帳を出し中から1枚の写真を出す。


国木田「こいつには遭うな。遭ったら逃げろ」


あなた「指名手配犯の……」


敦「えっと…この人は…?」


敦くんが写真を見てた顔を上げた時、横から太宰が現れる。


太宰「マフィアだよ。尤も、他に呼びようがないからそう呼んでるだけだけどね」


国木田「港を縄張りにする兇悪なポートマフィアの狗だ。名は芥川。

マフィア自体が黒社会の暗部。さらに影のような危険な連中だが、その男は探偵社でも手に負えん」


あなた「へぇ…………」


敦「何故__危険なのですか?」


国木田「そいつが能力者だからだ。殺戮に特化した頗る残忍な能力で軍警でも手に負えん。

俺でも…奴と戦うのは御免だ」



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見張りの荷物を持って、谷崎さん達と目的地へ向かう。


敦くんが芥川の話をしていた時、私は依頼人とお喋り・・・をしていた。


あなた「えーと、樋口さん…でしたっけ。何のお仕事をなさってるんですか?」


樋口「何の変哲もない貿易業ですよ。主に事務仕事をしています」


あなた「へぇ~…にしては」


私は樋口さんの手首を掴む。


あなた「…結構筋肉質ですね、何か力仕事を?」


手首を掴まれ、樋口さんはすぐに私の手を払おうとする。


樋口「掴まないでください、痛いです」


あなた「嗚呼、御免なさい…」


___ビンゴ…__


心の中で不敵に呟く。


樋口「着きました」


私の視線から逃れるように、樋口さんは路地裏を指さす。


樋口さんを先頭に、私達は路地裏へ入っていった。


敦「なんか……鬼魅の悪い処ですね」


薄暗い路地で谷崎が口を開く。


谷崎「……おかしい。本当に此処なンですか?ええと_」


樋口「樋口です」


谷崎「樋口さん、無法者と云うのは臆病な連中で…大抵取引場所に逃げ道を用意しておくモノです。でも此処はホラ…」


谷崎は明るい表通りの方を指差す。


谷崎「捕り方があっちから来たら逃げ場が無い」


樋口「その通りです」


樋口は髪を結い、ネクタイを緩めて携帯を取り出す。


樋口「失礼とは存じますが、嵌めさせて頂きました。

私の目的は、貴方がたです」


そう云うと携帯越しに誰かに喋り出した。


樋口「芥川先輩?予定通り捕らえました。これより処分します」


谷崎「芥川……だって?」


樋口はサングラスをかけ、懐から銃を取り出し云った。


樋口「我が主の為__此処で死んでいただきます」


谷崎「此奴…………」


敦「ポートマフィア……!」


あなた「…………矢ぁっ張り」


__路地裏に銃声が響いた。




ポタリと赤黒いものが垂れる。


ナオミ「兄様……大丈…夫?」


口から血を流す妹を、兄は凝視する。


谷崎「ナオミッ!!!」


倒れて気を失ったナオミに何度も声をかける。


敦くんはペタリと腰を抜かした。


谷崎「ど、どどうしよう……し、止血帯!敦くん止血帯持ッて無い?

いや先ず傷口を洗って……違う、与謝野先生に診せなきゃあ……

い、医務室まで運ばないと!敦くん、足持って__」


樋口「そこまでです」


焦って思考がまとまらない谷崎の後頭部に銃口が触れる。


樋口「貴方が戦闘要員でない事は調査済みです。健気な妹君の後を追って頂きましょうか」


谷崎「あ?」


…樋口の発言は、彼の地雷を踏んだ。


溢れる殺気に樋口は後ずさる。


谷崎「チンピラ如きが__ナオミを傷つけたね?


____『細雪』」


異能力が解放され、チラチラと雪が振る。


谷崎「敦くん、あなたちゃん、奥に避難するンだ。

此奴は___ボクが殺す」


樋口が谷崎に向けて銃を乱射する。


然し谷崎の姿は朧のように消えた。


何処からか谷崎の殺気立った声が響く。


谷崎「僕の『細雪』は雪の降る空間そのものをスクリーンに変える。

ボクの姿の上に背後の風景を『上書き』した。もうお前にボクは見えない」


樋口「然し…姿は見えずとも弾は中る筈っ!」


谷崎「大外れ」


谷崎の手が樋口の首に回る。


谷崎「死んでしまえ___ッ!」


__路地裏に咳き込む音が響いた。


谷崎の胴を黒い異能が貫く。


表の明るさに照らされ逆光で影に包まれた黒い異能を操る男。


口元を上品に拭った此奴こそ____芥川龍之介であった。


芥川「死を惧れよ 殺しを惧れよ」


黒い異能が谷崎の身体を抜ける。


芥川「死を望む者 等しく死に 望まるるか故に__ゴホッ」


今私の口角は上がっているのだろう。


それは遊戯をしている子供のような笑みだったか、見知らぬ世界から逃げようとしている弱者の笑みだったか。


それとも___餌を与えられた狂犬のような。


私の心には沸々と闘争心が湧いていた。之を人は本能と云うのだろう。


芥川「お初にお目にかかる、やつがれは芥川

そこな小娘と同じく、卑しきポートマフィアの狗__」


再びゴホゴホと咳き込む。


樋口「芥川先輩、ご自愛を__此処は私ひとりでも…」


樋口の頬に鈍い音が起きる。


芥川「人虎と小娘は生け捕りとの命の筈。片端から撃ち殺してどうする。役立たずめ」


パワハラだァ!!!!


なんて呑気な事を私は考える。自分の本能に乗っ取られないように。


敦「人虎……?生け捕り……?あんた達一体……」


芥川「元より僕らの目的は貴様等なのだ、人虎、小娘。

そこに転がるお仲間は__いわば貴様等の巻添え」


あなた「…………」


私の異能なら、この場を一瞬で収める事位楽勝だ。


でも__"母"の言付けを破る訳には、いかない……。


敦「僕の所為で、皆が___?」


あなた「_君の所為じゃない。」


私は敦くんの肩に手を置く。


あなた「嘘だと気付いた時点で引き返さなかった私の責任だ」


樋口「矢張り気付いていたのか……!」


あなた「…探偵社で握手をした時、樋口さん、貴方の脈を取った。

そして此処に向かっている最中、もう一度貴方の脈を取った。知ってる?」


私は微笑む。


あなた「人は嘘がバレたくないと思った時、脈が早くなる。向かう最中、探偵社にいた時よりも脈が早かった。」


樋口は悔しそうな目で私を睨むが、私の目は芥川を見ていた。


あなた「芥川くん…だっけ。君真逆___」


___私に勝つ心算つもり


芥川「__ッ『羅生門』!」


私の殺気に気圧され、芥川は異能を放つ。


あなた「おぉっと……危ないなぁ…」


凄まじい速さで通過した異能に敦くんは再び腰を抜かす。


芥川「僕の『羅生門』は悪食。凡るモノを喰らう

抵抗するならば次は脚だ」


敦「な、何故?どうして僕が……」


あなた「敦くん、二人を連れて逃げ__っと!」


向かってくる異能をどうにか避ける。


敦くんはまだ息が残っている二人を凝視し、雄叫びを上げて芥川へ向かっていった。


芥川「玉砕か__詰らぬ」


敦くんは異能を避け、地面に落ちていた銃を拾い芥川の背後に回って銃を撃つ。


私は荷を荒々しく開け、谷崎兄妹に応急手当を行う。


カランと銃の玉が落ちる音が聞こえる。


敦「そ、んな……何故……」


芥川「今の動きは中々良かった。然し所詮は愚者の蛮勇。

云っただろう。僕の黒獣は悪食。凡るモノを喰らう。仮令それが『空間そのもの』であっても。

銃弾が飛来し着弾するまでの空間を一部喰い削った。

槍も炎も空間が途切れれば僕まで届かぬ道理」


敦「な…………」


芥川「そして僕、約束は守る」


刹那、異能が足を喰いちぎった。


路地に悲鳴が響き渡る。


芥川「次は貴様だ」


あなた「…いいや、未だだよ」


壁にいたのは、人のような、虎のような。


先程とは違う異質さ。


生々しい音を立てながら足が『再生』される。


芥川「そうこなくては」


敦くんは昨晩と同じように、虎へ成った。


芥川は羅生門で虎の腹を喰い裂く。然し腹はあっという間に再生された。


芥川「再生能力!しかも之程の高速で___!」


樋口「芥川先輩!」


芥川「退がっていろ樋口。お前では手に負えぬ」


虎が飛び上がって芥川へ襲いかかる。


芥川は羅生門を蜘蛛の糸のように張り巡らせ、虎の進行を防ぐ。


防いだ勢いで芥川は壁へめり込んだ。


樋口「おのれ!」


樋口は銃を拾い虎へ撃つ。


然し銃弾は固く丈夫な体躯に防がれた。


暴走している虎は樋口へ体を向ける。


芥川「何をしている樋口!

___『羅生門・顎』」


虎の体が二つに裂けた。


血が壁際にいた樋口へ降りかかる。


あなた「敦くん!!」


芥川「ち……生け捕りの筈が」


地面にドサリと落ちた虎は___朧のように消えた。


谷崎「『細雪』……!」


芥川「!今裂いた虎は虚像か!では___」


何処からか虎が姿を現す。


芥川「『羅生門・叢』___!」


__虎と羅生門がぶつかり合う_______


「はぁーいそこまでー」


二つの異能がパタリと消えた。


あなた「遅かったですね、太宰さん」


樋口「貴方探偵社の__!何故此処に」


太宰「美人さんの行動が気になっちゃう質でね。

こっそり聞かせてもらった」


樋口「な……真逆、盗聴器?!」


あなた「狡いなぁ、ホント。前の職業柄が抜けてないんじゃないですか?」


太宰「真逆、之は探偵としてさ」


樋口「では最初から__私の計画を見抜いて」


太宰「そゆこと。ほらほら起きなさい敦君。三人も負ぶって帰るの厭だよ私」


樋口「ま……待ちなさい!生きて帰す訳には」


芥川「止めろ樋口。お前では勝てぬ」


樋口「芥川先輩!でも!」


芥川「太宰さん、今回は退きましょう__然し人虎の首は必ず僕らマフィアが頂く。そこの小娘も」


太宰「なんで?」


芥川「簡単な事、その人虎には_闇市で七十億の懸賞金が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」


太宰「へえ!それは景気の良い話だね!でもあなたちゃんはどうして必要なんだい?」


芥川「小娘は異能特務科が血眼になって探している者、即ち闇に堕ちると不味い異能の持ち主と云う事。」


あなた「……ま、そーだね。マフィアに目も付けられるや」


太宰「へぇ、どんな異能なの?」


あなた「秘密です」


太宰「えぇー……」


芥川「…探偵社には孰れまた伺います。その時素直に七十億を渡すなら善し。渡さぬなら__」


太宰「戦争かい?探偵社と?良いねぇ、元気で


やってみ給えよ__やれるものなら」


樋口「……ッ零細探偵社ごときが!我らはこの町の暗部そのもの!

傘下の団体企業は数十を数え、この町の政治・経済の悉くに根を張る!

たかだか十数人の探偵社ごとき__三日と待たずに事務所ごと灰と消える!

我らに逆らって生き残った者など居ないのだぞ!」


太宰「知ってるよ、その位」


芥川「然り、外の誰より貴方はそれを悉知している。

_____元マフィアの太宰さん」





あなた「……話は終わった?却説と…帰りますよ、太宰さん」


去っていく二つの背中を見ながら、ナオミを背負う。


太宰「……あなたちゃん」


あなた「なんですか…わ、ナオミさん軽ッ……」


太宰「_君は一体何者だ?」


あなた「___……は?」


刹那、空気が冷える。


太宰「君の経歴は大学に入学するまで空白だ。異能に関しての詳細は全く無く…二親の詳細すら消えていた。」


太宰を見据えた彼女の瞳は__酷く濁っていた。


普段の透き通った目では無いその瞳に、太宰は背筋が凍る。


あなた「…道化、ですよ。」


彼女の顔には全くと云っていいほど表情が無かった。


あなた「普通…つまり一般人の営みを理解し、其れを演じる道化。

己の異常さを恐れ、常人の仮面をつけて異質さを抑え込む。」


太宰「………何故"普通"を目指す?」


あなた「決まってるじゃないですか


___『戒め』ですよ」


彼女は乾いた笑みを浮かべ、云った。


あなた「なーんて、冗談ですよ!私は唯の女子大生です、つい格好つけちゃいました!」


太宰「…無理をしなくて良い、君は自分の好きなように生きていいんだ」


あなた「無理なんてしてませんよ、早く皆を運ばなくては。」









__太宰は思った。


かつての友人に似ていると。


己の行いを戒めるその姿が、"普通"を求めるその姿勢が__。


だからこそ思ってしまう。


彼女も儚く壊れてしまうのではないか。


結局は途中で散ってしまうのでは無いか…。


太宰「…私はどうすればいいんだ、織田作……」


そんな呟きは、影の中へ霧散していった。





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作者です。

懲りもせずシリアス書いてます。

書いてる途中で視点が変わる事があります。

気にせず読んでください(苦笑)


戦闘シーンのセンスが皆無なのも気にしないでネ!

気にしたら負けです。

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