あなたside
ここ最近、サナがなんだか妙に近い
相談に乗ってもらってから数日
最初は“ちょっと距離近いな”くらいだったのが
日が経つごとに近づいてきている気がする
書類を見せるだけなのに距離を詰めて隣に座ってくるし
廊下で呼び止められた時も、肩が触れそうな距離にいる
前から距離は近かったけどここまでじゃなかった
そんなことを考えていたある日、またサナに袖をちょんと引かれた
理由を言わないのが逆に不自然で、気づけばサナに引かれるまま
人の少ないスペースに立っていた
そして、やっぱり距離が近い
書類を渡されただけなのに、肩が触れそうで、息がかかりそうで
違和感を覚える私を横目に、サナはいつも通りの顔をしていた
でも、ほんの一瞬
視界の端に、ナヨンオンニが立ち止まるのが見えた
その表情が、胸に刺さった
サナはちらっとだけナヨンオンニに視線を向けて
何かを確認するみたいに小さく笑った
その笑みが、なぜか胸にひっかかった
問い返す私に
サナは唇だけで笑って、声を落とす
心臓がひとつ跳ねた
サナはそう言うと
まるで“仕掛けは成功”と言うみたいに私の頭をぽんと叩いて歩き出した
理由は教えてくれない
でも“何か知ってる”のは確かで、胸のモヤモヤだけが残った
ナヨンside
最近……ほんの少しのことで胸が揺れる
仕事の合間にふと視線を上げると
あなたがサナと肩を寄せて話しているのが見えた
笑っている
その笑顔を見るだけで胸がきゅっと縮まる
そう思ってしまう自分がいる
でも同時に
そんなこと思う資格今の私にはない
あなたと私は恋人じゃない
名前の無いまま寄り添ってる
ただ、それだけ
“そばにいる”
“支える”
それを選んだのは私で、あなたを急かしたくないから
恋人に戻りたい気持ちはずっと前からある
でも今のあなたには言えない
だから、どれだけ胸が痛んでも我慢して飲み込んでた
なのに…
サナとあなたが最近やけに近い
視界の端でふたりが笑い合うのを見ると
喉がつまるような息のしづらさが胸に広がる
ただ並んで立っているだけ
それなのに、胸の奥がずしんと重くなる
あなたが自分以外の誰かと笑いあっているのを見ると苦しくて、子供みたいな感情が顔を出す
でも表には絶対に出さない
あなたにとって私は安心出来る存在でありたいから
不安にさせるなんで絶対に嫌
だからいつものように、落ち着いた顔で歩き続けた
……つもりだったのに
廊下の向こうで、サナがあなたの袖をそっとつまみ、顔を近づける場面がふと見えてしまった
胸の奥が、ぐらりと揺れた
あなたがこちらを振り返った瞬間目が合った
驚いたような、探るような瞳
私は苦笑に近い薄い笑みを作って、すぐに視線をそらした
本当はすぐに駆け寄って
「その距離、嫌だ」って言いたかった
でも言えない
言ってしまえば彼女を縛ることになるから
だから今日も、胸が少しだけ軋んだまま
大人のふりをしてエレベーターのボタンを押した
その静かな痛みは
誰にも知られず積もっていく













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!