あの日、
珍しく部活が休みだった優太と一緒に久しぶりに帰ろうとしたら、
「よし、亜美帰るぞー」
重たそうなエナメルバッグを肩から提げて気だるそうな声を出す優太。
「重そうだね、それ」
「すっげぇ、重い…これさ」
「亜美〜〜!!」
突然後ろから聞こえた私の名前を呼ぶ咲良の声。
振り向くと、何か腕に抱えてこっちに走ってくる咲良の姿が見えた。
「どうしたの?咲良」
「引き止めちゃってごめんね!あのね!これ……っっ!!」
すると、咲良は急に黙り出して顔をそむけてしまった。
その頬は微かに赤く染っている。
「ちょ、大丈夫?咲良、顔赤いよ?気分悪いとか?」
「ち、違うの……ごめん」
チラッと視線を上に向ける咲良を追ってみると、
…………何でなんだろう。
その先には同じように頬を赤く染める優太の姿があった。
嫌でも分かってしまった。
これがどういうことを意味しているのかも。
「あ、あの……」
優太の蚊の鳴くような声が隣から聞こえた。
「……亜美の幼なじみのあ、荒川優太、です」
「……亜美と同じクラスの…森谷、咲良で、す……」
2人して赤く染まった顔を下に向ける。
こんな表情の優太は見たことがない。
こんな表情の咲良は見たことがない。
━━━━━ こんなに苦しい気持ち、私は知らない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。