第36話

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2020/07/26 13:00



一日の作業を終えて、
ご夫妻が営まれている民宿にお邪魔する。

一室を借りて、束の間の休息。

今はカメラも無いし、羽を伸ばす。



佐「疲れた…」

照「なんか途中から、変に緊張してなかった?」

佐「え?」

照「なんか質問にたどたどしさがあった」



家族のこと聞いたあたりからかな…。



佐「いや、まだ確証が無いんだけど、家族構成とか、お子さんの年齢がさ、彼女の家族と似てて…」

照「彼女、霜月さんて言うの?」

佐「うん。ご両親の話ってあんまりしないから…お兄さんと同居だし、」

照「連絡してみたら?」

佐「荷物、今マネのとこなんだよね、」



マネージャー、荷物持ったまま次の打ち合わせ行っちゃってるんだよなぁ。



照「こんなことってある?」

佐「無いよね?!無いと信じたい!」

照「とりあえず収録中は意識しないように、」



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収録再開は、夕ご飯作りから。

…って言っても、佐久間さんに包丁握らせちゃう?!舘様のアシスタントしかした事ない佐久間さんだよ?!



妻「じゃあ、このナス乱切りで切ってねー」

佐「乱…切り?」

妻「こうやって切るのよ」



慣れた手さばきで料理を進めていくお母さん。

この手際の良さや、今日の料理のレパートリーがあなたの料理と重なる。



いやいや、ほんと、まさかね…?



妻「ほら、手が止まってるよー」

佐「は、はい!」



_



出来上がった料理はどれも美味しかった。

そして、どこか懐かしい味。



佐「お母さんの料理は安心感がありますね!」

妻「安心感?初めてよ、そんなこと言われたの」

照「いや、ほんと、上手いっす」

夫「米も沢山あるから食べていいからなー」



さっき俺が切ったナスは揚げ浸しになっていた。

それを1口。



佐「パクッ…!!!」



確信的だった。

味付けが、あなたと一緒だった。



妻「佐久間さん?お口に合わなかったかしら」

佐「いえ!この揚げ浸し好きっす!」



器が違うから?俺が切ったから?

不揃いのナスに何も考えていなかったのに、
味は大好きな彼女の料理で…。



それから、収録はお風呂に入って今日はお終いだったけど、あの味が、頭から離れなかった。



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