(にしても、あいつ。俺には一言も話さねーな。幽霊だから香以外には聞こえねーとか?)
「なぁ、香。当然で悪いがあいつ、名前も分かんねんだろ?」
「あ、うん…。分からないって言ってた。」
「じゃぁ呼ぶ時、なんて呼んだらいいんだ?」
「あぁ、そうですねー。」
「いい加減、そいつやその子って呼ぶのも可哀想になってきてよっ。何か考えろよ。」
「えぇー!私がですか!?」
「無かったら名無しくんとかにするぞ。」
「えぇー、それこそ可哀想ですよ!」
「だったら早く考えろー。」
俺の家に向かう間、あいつはずっと下を向いたままだった。
それが俺には不気味に感じた…。
そうこうしているうちに俺の家に着いていた。
「ほら、着いたぞ。ここが俺の家だ。」
「へぇー、以外と普通ですね」
「そりゃそうだろ。そこらの家と変わらねーよ。ほら、中入れ。」
「はーい、お邪魔しまーす。」
「先に俺の部屋に行ってろ。」
「翔の部屋どこー?」
「あぁ、階段上がって左。一番奥の部屋。」
「はーい。どんな部屋だろ」
「普通だよ。」
「………フフッ…。」
(んっ!?あいつ今笑った?……あ、でも話す声が聞こえねーんだから笑った声も聞こえねー…よな…。まぁ…いいや)
「なんか無かったけなー。菓子はともかく飲み物…。あった!珈琲とジュース…。どっちも持っててみるか!」
「うわー、綺麗な部屋。というより何も無いって感じ。やっぱり私の部屋と違うなー。さーて、どこにあるんだろ。」
「おーい、香。どっちの……。何してんだ?」
「うわぁ!!びっくりしたー。驚かさないでくださいよ!」
「あー、悪い悪い。で?どっち飲む?珈琲とジュース。」
「じゃぁ、ジュースで。」
「ほらよ。」
「ありがとうございます。」
「それで、さっき何してたんだ?」
「えっ!?あー、この子の記憶のヒントをさが…」
「本当は?」
「…男の子特有のあれを…探してました…」
「それで、それはあったか?」
「見つかりませんでした。」
「そりゃそうだ。そんな物持ってないしな。」
「えぇー。なんか想像とちがーう!」
「お前、どんな想像してんだよ。はぁ…香!お前はここに何しに来た?」
「この子の記憶のヒントを探しに来ました!」
「それで?」
「まだ、探してません…。」
「ったく!…おい!えぇーっと、名無し…くん!ここにお前の記憶のヒントになりそうな物はあったか?」
「!!。………。」
「なぁ、香。こいつ何か言ってるか?」
「ううん、何も言ってないですよ。」
「そうか…。ここにはねーのかなー?」
「…ちゃん……。」
「ん?」
「…か…ける…にい……ちゃん…。」
「えっ?今…お前……。」
「どうしたんですか?」
「なぁ!今こいつ何か言わなかったか?」
「え?だから、何も言ってないですって。」
(本当か?俺には聞こえた。なのに香には聞こえてない…なぜだ?)
「ボク…は。か…ける…にいちゃん…だけ…に、はなし…かけて…る…」
「…俺、だけに?」
「うん……」
「翔?」
「香!こいつが俺だけに話しかけてるって言ってるんだが…。」
「あ、やっと…話す勇気が出たんだね。」
そう香が言うと幽霊の彼はコクりと頷いた。
「…?なんだ、話す勇気って。」
「学校で、翔が来るのを待ってる時この子が言ったの。翔には自分から言うからって。」
すると、さっきまでの掠れた声ではなく俺の耳に、はっきりした声が聞こえ始めた…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。