第8話

帰り
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2020/06/01 03:45
数学を塾の先生に教えてもらっていると、遅くなってしまった。


双葉と望は先に帰っているから……1人。


時刻は23:55


はぁ。

謎の男
ねーねー!塾の帰りー?俺らとさ、楽しいところ行こーよ!
あなた

えっ!?

相手は大学生だろうか。

男2人組。


逆らったところで勝てないけど、必死に抵抗する。
警察官
おいっ!何してんだ!
そういったのは、この前のイケメン若手警察官だった。
謎の男
やっべ!行くぞっ!
警察官
おいっ!待てっ!
逃げ足は速く、あっという間にどこかへ行ってしまった。
警察官
だ、大丈夫……?って…この前の
あなた

ありがとうございました。今日も塾の帰りなんで。

警察官
そっか。
まぁ、もうこんな時間だもんね。
警察官
そんなに勉強頑張ってるんだ…家の人は心配してるんじゃない?
あなた

心配なんてするわけないです。あの人たちは私の成績にしか興味がないんですから。滅多に家にもいないんで。

あ……

思わず……私としたことが。


警察官は何ともいえない表情。

だよね……

あなた

すみません、急に。あの、帰りますので。

警察官
待って!
あなた

え?

何?
警察官
家の人帰ってもいないんでしょ?
あなた

まあ、はい。

警察官
じゃあ、ちょっと待って!
そういうと、何かをしていた。

電話かな。
警察官
家まで送るよ。
あなた

えっ?でも……

警察官
大丈夫だから。俺でよければ、話聞くけど。あ、何も言いたくないなら無理して話さなくていいから。
何か、言いたくなった。

今の、この、私の気持ちを誰かに打ち明けてみたかった。


私のこと、何も知らない人に全てを聞いて何かの言葉をかけて欲しかった。
あなた

私の家系は代々エリートなんです。

母も、父も東大卒で。兄も東大に合格して。いとこも東大卒で。

でも、私はこの前のテストの数学で89点をとってしまって。

うちは80点代なんてあり得ない。90点代で当たり前なんです。


で、父からも怒られて、母からも呆れられて。

そして、学校に行ったら、ガリ勉呼ばわり。仲の良かった子にも裏切られて。

本当に心の底から楽しめるのって、塾の友達だけなんです。

家も息苦しくて。
何かもういい子でいないとって思ってて。

でも、それがもう限界に近づきつつあって。

父も母も、仕事が忙しくて、二人ともこれから1ヶ月は出張でいないんです。

警察官
そうなんだ。
俺はさ、そんな家系とかじゃなくて、警察官になりたいって思って警察になったんだけど。

自分の人生でしょ?

自分のやりたいことをしたらいいと思うよ。

なんて、そんなことしか言えなくてごめん。

そういうのは他の人には分からない辛さだよね。

子供は親を選べないから。

最近は虐待も多いし、悲惨な事件もたくさんある。

それぞれ違う辛さがあるよね。
”自分のやりたいこと”

私のやりたいことは何?

私は将来、何になりたいの……?

私は今まで、進学校に入って、いい大学入って。



そうやって生きていく道しか考えてなかった。

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