第27話

567
2019/10/19 04:31
時刻は20:18



まだお母さんは目を覚まさない。
お父さん
お父さん
あなたと康介は1回家に帰りなさい。後で、交代しよう。
あなた

はい。



私たちは家に帰り、ご飯をパパっと用意した。



そして、ずっと無言だったからか、お兄ちゃんが沈黙を破った。
お兄ちゃん
テレビ………つけるか?
あなた

うん。

すると。


《えぇ……また、通り魔事件が起きました。
被害者は現場付近に住んでいる女性です。…………》



アナウンサーが重い表情でニュースを伝えていた。




お母さんのことだ。



《現在犯人は逃走しており、警察は捜査を進めています。
では、次のニュースです。》




お兄ちゃんはテレビを消した。



それから、私たちはまた無言でご飯を食べた。



ただでさえ、中々帰ってこなくて何を話したら良いのか分からないのに、こんなときに話せるわけないし。





お兄ちゃん
あなた、行こう。
あなた

うん。

私たちは車に乗り、病院に向かった。







”ガラガラ”
お父さん
お父さん
おう………来たか。
お兄ちゃん
まだ?
お父さん
お父さん
あぁ。父さんも1回帰るから、ここにいろ。
お兄ちゃん
はい。





お母さん……




目…覚まして……
お兄ちゃん
俺、ちょっと飲み物買ってくるけど。あなたは何かいる?
あなた

いらない。

お兄ちゃん
じゃ、行ってくる。
飲み物なんか飲む気にならない。




あなた

お母さん……


私………



私の成績にしか興味ない親でも…


私の親はお母さんとお父さんだけだから。





だから……生きててほしいの。



お母さん


早く



目、



覚ましてよ………




え………




おかあ…さん?


ゆっくりお母さんの瞼が動く。
あなた

お母さん!!

あなただよ!分かる!?

お母さん
お母さん
………あなた?
あなた

うん。そうだよ!あなただよ!



あ!ま、まずは先生呼ばないと!!




医師
では、お大事に。
お母さん
お母さん
はい。
お父さん
お父さん
ありがとうございました。


お母さんは不幸中の幸いで意識を取り戻した。
お母さん
お母さん
あなた…二人…で…話し…たい…


お母さんは詰まりながらそう言った。
お兄ちゃん
……じゃあ、父さん、行こう。
お父さん
お父さん
あぁ。


お父さんたちが出ていって私はベッドの横の椅子に座った。
お母さん
お母さん
あなた……ごめんね………


え………



お母さんが謝るなんて…
あなた

何が?

お母さん
お母さん
ごめんね。お母さん、実は目を開ける前から少し聞いてたの。
あなた

え?



ってことは、もしかして………



聞かれてた?
お母さん
お母さん
あれ聞いて、少し反省した。

あなたの成績にしか興味ない………


そう思われても仕方なかった。


でもね、そうじゃな………
あなた

………本当に思ってる?

私、聞いてたよ。



昔、あなたは望んで生まれたわけじゃないって。

うちは息子を1人生めばよかったって。



本当はこんなこと言うつもりじゃなかったのに、思わず、口に出していた。
お母さん
お母さん
………あなた…


ごめん。

全部、あなたのいう通りね。


でも………あなたは私の大切な娘よ。


って言っても………本当にごめんね。
あなた

この際だから、私が思ってることとか全部言うね。


寂しいよ?

わたしだって。


小さい頃から両親二人とも家にいないんだから。

ただいまって言っても誰もおかえりって言ってはくれない。


あんな広い大きな家の中で1人なんて、寂しい……



もっと、


もっと、


お母さんと色んな事話したかった。

お母さん
お母さん
………ごめんね。本当にごめん。


違うの。



別に私はお母さんに謝って欲しかったんじゃないの。




ただ………
あなた

いい、今からでもいいから………

お母さん
お母さん
ごめん、

お母さん、仕事をやめられないの。


仕事が好きなの。


毎日、働くことが好きなの。



だから、仕事をやめることはできないわ。




………でも、あなたの話、ちゃんと聞くね。
あなた

……

お父さん
お父さん
もう、いいか?
お母さん
お母さん
えぇ、いいですよ。


涙がポロポロと頬を流れる。



私は溢れだす涙をこらえきれずに、勢いよく病室を出た。






”ドンッ”

悠真さん
悠真さん
あなたちゃん………?
あなた

ゆ、悠真…さん……

どうして、ここに、いるの?

悠真さん
悠真さん
え?あ、お母さんが目を覚ましたって聞いて。襲われたときの話を聞こうと。
あ、そうだよね……
悠真さん
悠真さん
とりあえず、あそこ座ろう。
私たちは病院のベンチに座った。



悠真さん
悠真さん
何かあった?
私はお母さんと話したことを全て話した。
そして、思わず悠真さんに抱きついてしまった。
悠真さん
悠真さん
いいよ。落ち着くまで。
あなた

ありがとうございます。

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