見たことある光景
これは夢だ
またこの夢だ
また森を走って制服はパジャマになり裸足で走る
この先にいる
四足歩行で階段を駆け上がる
走っているのかもう分からない
涙でぐちゃぐちゃで何も見えないのに
後ろから迫ってくる目が私を離さない
この先にいる
あの時と同じであの人がいる
夢だから分かる
背中が見えた
ゆっくりこちらを振り向く
会いたかった
私をここから救ってくれる人
その胸に飛び込む
怖い怖い怖い怖い怖い
目が目が目が
私を見て離さない
必死にお願いしているのに助けてくれない
なんで?
私は誰にも救われないの?
あの映画みたいに1人で死ぬの
この世界に誰も誰も
私と同じ世界の人はいない
私は誰?何故ここにいるの?
悲しい苦しい
目の前に力強い目がうつる
凍える心に触れるほど綺麗な目だと思った
真剣な顔で私の顔を見続ける
その横からぬっと手が出てきて強制的に野薔薇ちゃんの方へ顔を向かせられる
ものすごく怒っている
でも怖かったから
パシーンっと音とともに頬に痛みがはしる
確かに言った
この世界の人間ではないけど生きるために
生きる過程で触れ合った仲間を守れるぐらい
そのぐらい強くなりたいと
嘘つきの自分が嫌になる
でも怖いのも嫌
逃げたいと思う自分が情けなくなる
恥ずかしいからここから消えたいとも思う
ごちゃごちゃになっていく感情に押しつぶされそうになる
虎杖君が力強い目で私を見て言った
そっとその手を握られる
それに重ねるように野薔薇ちゃんの手も重なる
臆病な私の心に少し勇気が芽生えた
あぁなんて情けないんだろう
その手を強く握り目が口がいる世界を振り向く
五条先生と伏黒君が術式を使って戦っている
最初に見た時より巨大になり
その巨体を縦横無尽に動かし続けている
目がこちらをむく
恐怖が込み上げてくる
小さな勇気が消えそうになる
2人はにやりと笑い
呪霊の元へ走った
アニメの世界のような戦闘シーンが目の前で
起きている
別の世界から見ているような
急に感情が遠のいた
私を縛っていたものが解けたような感じがした
自分で呟いた言葉はすっと胸に染み込んだ
どう足掻いてもこの世界は私の世界じゃなかった
世界も私も受け入れないのだから歩み寄れないんだった
自分の目の前に手のひらを広げ
化け物だけ見えないように覆う
見えなくなった事に安堵する
嬉しくて口が緩む
そしてゆっくりと潰すように
手のひらを握りしめていく
潰しこんだ手を視界からのけてると
もう化け物はいなかった
胸元までおろした握りつぶした手のひらをゆっくり開いて見る
何も無い手のひらが世界からの答えな気がした
ぼんやりと何も無い手を見続けていたら
野薔薇ちゃんが名前を呼びながら抱きついてきた
笑いながら嬉しそうにしている野薔薇ちゃんは可愛かった
その後に続くように
虎杖君と伏黒君も笑いながらそう言ってくれた
私は答えなければならない
そう言うとやれやれと言った感じで
伏黒君は肩を叩いてくれた
その手をぱっぱと払うようにしてくる野薔薇ちゃん
ニヤッと笑う野薔薇ちゃんに
私も笑い返して伏黒君に言う
仲良く笑う同級生
仲間の1人として笑う私
私は胸糞悪い映画のようにはなりたくない
ハッピーエンドしかありえない
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!