その後、なんにもないように授業を受けた。
理科は得意分野なので、ぼんやりと聞き流すことが当たり前になってしまっている。
いっつもよくしてくれている竜禅寺先生には悪いけど。
教科書とノートは飾りみたいなもの。
勿論提出物はきちんとしている。
授業態度くらい、見逃してほしい。
こんなの言ったら、我が担任尾崎先生に怒られそう。
ぼんやりと空を見上げていた。
竜禅寺先生も人が悪い。
わざわざ胡桃ちゃんと私をセットにしなくてもいいでしょう?
反抗的な態度は授業中は取らないほうがいい。
あくまで従順に。
何言ってんだろ、胡桃ちゃん。
竜禅寺先生の言う応用は高校レベルじゃないって、知ってるでしょ?
だからこそ私を指名しているわけだし。
ド正論。
うん、そうだよ。胡桃ちゃん見栄っぱりは損するだけだから。
そろそろ問題解かないとダメなんじゃないか、とか思って重い腰を上げる。
黒板までの道のりが嫌に遠く感じた。
歩くことへの恐怖とか?そんなのがあるのかもしれない。
さっきの出来事、自分で思っているよりも結構気にしてるのかも。
にやにやと笑いながら挑発してくる竜禅寺先生。
どこか大人げない。というか子供っぽい。
そういうと、少し目を見開いた先生。
え、まさか分かってないと思ってました?
見くびらないでほしいですね。
しん、と静まり返ったままの教室。
私と先生との視線が絡まり合っているようで、なんだか居心地が悪い。
私と竜禅寺終。
ただの生徒と教師という関係。
なんにも怪しいことなんてない。
落ち着いて、落ち着いて。
落ち着いたら、少し竜禅寺先生を見て問題に取り掛かるの。
チョークで文字を書くっていうのは生憎まだ慣れていない。
カツカツ、という静かな音。
リズムよく、滑らかに。
頭をフル回転させて。
周りなんて気にしないの。
思っていたよりも問題が難しかった。
少し手こずってしまった。
手こずる、と言っても平均よりは早いだろうけどね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。