第156話

今、なんて…?
5,535
2020/12/31 13:39
翌日   夜   ICU
ドタドタ
貴方
貴方
名取のバイタル上がってきたって?
藤川一男
藤川一男
多分もう目覚めると思う。
白石恵
白石恵
名取先生…
名取颯馬
名取颯馬
 ピクッ(指が少し動く)
貴方
貴方
…名取?
藍沢耕作
藍沢耕作
分かるか?
名取颯馬
名取颯馬
“((。。*)コクッ
貴方
貴方
抜管するね。
名取颯馬
名取颯馬
……ゲホッゴホッ…
白石恵
白石恵
名取先生…
名取颯馬
名取颯馬
ゲホッ…緋山先生は……?
冴島はるか
冴島はるか
隣のベッドです。
名取颯馬
名取颯馬
(見る)寝てる……
藤川一男
藤川一男
名取も、気分が悪いとか、そういうの無ければもう寝た方がいいよ。今23時だから笑
名取颯馬
名取颯馬
え…なんで藤川先生達は残って…?
貴方
貴方
今日はたまたまシニアが当直だったの。笑
名取颯馬
名取颯馬
そうなんですね…ありがとうございます。
白石恵
白石恵
じゃぁ…安静にね。
名取颯馬
名取颯馬
はい。
スタッフステーション
藤川一男
藤川一男
今日、残っててよかったな。
冴島はるか
冴島はるか
そうですね。
藍沢耕作
藍沢耕作
…名取に当直って嘘ついたのはなんでだ?
貴方
貴方
気にするでしょ、私達のこと。
だから嘘ついたの。笑
藍沢耕作
藍沢耕作
なるほどな。
白石恵
白石恵
それより…問題は緋山先生…よね。
藤川一男
藤川一男
だな……



遡ること昨夜……





___________________________


ICU
緋山美帆子
緋山美帆子
ん…
貴方
貴方
緋山?起きた?
緋山美帆子
緋山美帆子
空井……?
冴島はるか
冴島はるか
導入剤切れました?
貴方
貴方
ぽいね。
緋山美帆子
緋山美帆子
空井…名取は…?
貴方
貴方
…まだ目覚めてない。
緋山美帆子
緋山美帆子
あたしの…あたしのせいだよね……
冴島はるか
冴島はるか
緋山先生…
貴方
貴方
那原呼んで。
冴島はるか
冴島はるか
はい。
緋山美帆子
緋山美帆子
あたしが突っ立って無ければ名取は…!
貴方
貴方
それは誰にも分からない。崩落は広範囲だったし、少なからず緋山のせいじゃない。
緋山美帆子
緋山美帆子
でも…!ゲホッ
貴方
貴方
まずい…那原まだ?
冴島はるか
冴島はるか
急いで向かってるそうです。
緋山美帆子
緋山美帆子
ゲホッゴホッ…はぁはぁ……
貴方
貴方
酸素投与量増やして。
冴島はるか
冴島はるか
はい。
緋山美帆子
緋山美帆子
はぁはぁ…ゲホッ…あたしの…あたしのせい…!
貴方
貴方
緋山、大丈夫だから。1回落ち着こう?
緋山美帆子
緋山美帆子
ゲホッゴホッ…はぁはぁ…無理よ…あたしが悪いんだから……!(暴れる)
貴方
貴方
(抑える)緋山、大丈夫だから!落ち着いて。
緋山美帆子
緋山美帆子
離してっ!ゲホッゴホッ…ゲホッ
冴島はるか
冴島はるか
空井先生、血圧下がってます…!
貴方
貴方
輸液追加。
冴島はるか
冴島はるか
はい。
ドタドタ
那原紗夜
那原紗夜
ごめん遅くなった。
貴方
貴方
回復不可。抑えんの手伝って。
那原紗夜
那原紗夜
了解。
冴島はるか
冴島はるか
固定しますか?
貴方
貴方
いや、かえって危ない。抗不安薬投与する。
那原紗夜
那原紗夜
今?ちょっと様子見た方が…!
貴方
貴方
様子なんて見てたら私達の体力が持たない!
那原紗夜
那原紗夜
そんなこと言ったって……
貴方
貴方
…藍沢にコールして。まだ居るはず…!
冴島はるか
冴島はるか
はい。
ドタドタ
白石恵
白石恵
緋山先生…
藍沢耕作
藍沢耕作
やっぱり緋山か…
藤川一男
藤川一男
予想的中…
貴方
貴方
なんでここに?
藤川一男
藤川一男
準夜勤組、帰ろうと思って一応様子見に来たらこの状況。
藍沢耕作
藍沢耕作
廊下にまで声が聞こえてたから気になってな。
那原紗夜
那原紗夜
様子見に来てくださって良かったです…
藍沢耕作
藍沢耕作
空井、抑えるの変わる。
藤川一男
藤川一男
那原先生、変わります。
那原紗夜
那原紗夜
ありがとうございます。
貴方
貴方
ありがとう。
白石恵
白石恵
バイタルは?
冴島はるか
冴島はるか
酸素3ℓ投与でサチュレーション97%、血圧120/56、心拍71、脈拍68です。
藤川一男
藤川一男
抗不安薬投与…迷うな…
藍沢耕作
藍沢耕作
…固定するか?
貴方
貴方
かえって不安を煽る気がする…
緋山美帆子
緋山美帆子
ゲホッゴホッ…はぁはぁ……ゲホッ
藍沢耕作
藍沢耕作
緋山、今気持ち悪いか?
緋山美帆子
緋山美帆子
ゲホッゴホッ…悪くない……ゴホッ
貴方
貴方
苦しい?
緋山美帆子
緋山美帆子
苦しい…ゲホッ
冴島はるか
冴島はるか
酸素増やします。
貴方
貴方
お願い。
藍沢耕作
藍沢耕作
……ちょっとは落ち着いたか?
冴島はるか
冴島はるか
バイタル、少し上がってきました。
貴方
貴方
酸素増やしながら楽にさせるのがベストかな…
藍沢耕作
藍沢耕作
だな。



___________________________
貴方
貴方
そこから緋山、目覚めてないよね…
藍沢耕作
藍沢耕作
…今日、俺は泊まろうかな。
貴方
貴方
私も泊まる。
白石恵
白石恵
私も泊まろっかな。
藤川一男
藤川一男
俺も。
冴島はるか
冴島はるか
私も。急変したら大変ですし…
貴方
貴方
じゃぁ…朝まで、ICUで様子見とこっか。
冴島はるか
冴島はるか
ですね。






翌日 朝
白石恵
白石恵
(´-ω-`)))コックリコックリ
貴方
貴方
白石、起きて。
白石恵
白石恵
…あ、ごめん。
貴方
貴方
いいよ、んで緋山のモニターみて。
白石恵
白石恵
(見る)あ、サチュレーション上がってきてる…
貴方
貴方
行こう。
緋山のベッド前
緋山美帆子
緋山美帆子
……ん…
藍沢耕作
藍沢耕作
起きたな。
冴島はるか
冴島はるか
分かりますか?
緋山美帆子
緋山美帆子
はい…
貴方
貴方
(何かに気付く)
この方(白石)誰か分かりますか?
白石恵
白石恵
空井先生、なんのテスト?笑
緋山美帆子
緋山美帆子
えーと…ここの先生…ですか…?
白石恵
白石恵
え…?
貴方
貴方
そうです。じゃぁ…貴方の名前は?
緋山美帆子
緋山美帆子
緋山美帆子です。
貴方
貴方
オッケーです。じゃぁちょっと失礼しますね。
ICUスタッフステーション
白石恵
白石恵
私を覚えてない…?
貴方
貴方
多分、皆の事を忘れたんだと思う。
冴島はるか
冴島はるか
そんな…
藍沢耕作
藍沢耕作
名取が接触しなければいいが…
藤川一男
藤川一男
(ベッドを見ながら)
…あれ、してるっぽくないか?
貴方
貴方
え……?
(こっそり近付く)
名取颯馬
名取颯馬
緋山先生、あの、気にしないで。悪くないから…
緋山美帆子
緋山美帆子
え…
名取颯馬
名取颯馬
俺が守りたくて守ったからさ…責任感じないでね…?
緋山美帆子
緋山美帆子
あ、あの…
名取颯馬
名取颯馬
ん?
緋山美帆子
緋山美帆子
誰…ですか…?
名取颯馬
名取颯馬
え……?
緋山美帆子
緋山美帆子
さっきから大丈夫とか…怖いんですけど…
名取颯馬
名取颯馬
そんな……
貴方
貴方
っ……(走って何処かに行く)
藍沢耕作
藍沢耕作
空井!(追いかける)



私はいてもたっても居られなかった。

やっと目覚めたのに。

なんでなの?

なんでこの2人が苦しまなきゃいけないの?

名取の今すぐにでも泣きそうな顔。

緋山の困惑した顔。

白石の硬直した顔。

冴島の泣きそうな顔。

藤川の悔しそうな顔。

藍沢の…名取と同じくらい苦しそうな顔。

私はどの顔もみていられなかった。




だって、私も1度、緋山みたいになった事があるから。

結婚直前、記憶を失って。

藍沢を、皆を、沢山苦しめてしまったから。

だからって、今の私に何が出来る?


答えは決まってる。


何も出来ないんだ。

情けない。

スタッフリーダーとして、そして2人の幸せを願う身として…




いつの間にか私は、ヘリポートに来ていた。


辛い時は決まってここヘリポートに来ていた。

少なからず、救われる気がして。

ここなら、本音を出してもいい気がして。









色々考えている内に

私の頬には一筋の涙か伝っていた。





ヘリポート
貴方
貴方
情けないなぁ……(涙声)
藍沢耕作
藍沢耕作
はぁはぁ…(走ってきた)空井…
貴方
貴方
え、耕作…?(涙を拭う)
藍沢耕作
藍沢耕作
ギユッ(空井を抱きしめる)
貴方
貴方
耕作…私、情けなくて……
藍沢耕作
藍沢耕作
大丈夫、大丈夫だ。名取なら大丈夫だ…
貴方
貴方
…耕作、泣いてる……?
藍沢耕作
藍沢耕作
大丈夫、大丈夫なんだ…
貴方
貴方
耕作…ごめんね、思い出させちゃったか……
藍沢耕作
藍沢耕作
大丈夫、今となってはいい思い出だから…
貴方
貴方
耕作……
耕作が弱ってる…

口では「いい思い出」なんか言ったって、

本当はものすごく辛かったと思う。

だって、結婚するはずの人に突然忘れられて

「誰ですか?」なんて言われるんだもん

平気な方が可笑しいくらい。











切り替えよう、考えたってキリがない。


私がそうなってしまったのも、緋山がそうなったのも、

宿命なのかもしれない。

結婚するための大事な1歩なのかもしれない。


大きく、大事な1歩を、確実に歩んでもらわなくちゃ。





皆が支えてくれたように、今度は私も支えなきゃ。

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