優くんは淡々とそう言い、
倒れた光くんに馬乗りになる。
とっさに駆け寄ろうとすると、
光くんは殴りかかってこようとする
優くんの腕を掴んで、必死に呼びかける。
光くんは一瞬だけ傷ついたように眉を寄せ、
襲いかかってくる優くんを殴り返した。
私は光くんの言いつけを破って、
優くんに体当たりする。
すると地面に転がった優くんが、
すぐに身体を起こして私の首を絞めた。
バコッと光くんの拳が、
優くんの頬にめり込む。
勢いよく吹っ飛ばされた優くんは、
殴られたところが痛むのか、
私たちの前から逃げてしまった。
私たちはすぐに優くんを追いかけ、
体育倉庫にやってきた。
バットを手に取り、
今にも殴りかかってこようとする優くん。
ごくりと唾を飲み込む。
お互い少しでも動いたら、
交戦が始まってしまうだろう。
嫌な汗が額から頬を伝って落ちる。
発狂する優くんを迎え撃つように、
光くんも地面を蹴った。
しかし、相手はバットを持っている。
素手の光くんのほうが、
圧倒的に不利だった。
光くんは顔を殴られ、
勢いよく地面に転がった。
その額からはつううっと、
血が流れている。
震える足に力を入れて、
私は一歩、また一歩と前に踏み出す。
悲鳴に近い光くんの声が聞こえたが、
私は構わず優くんのほうへ歩いて行く。
バットを手に向かってくる優くん。
地面に腹ばいになりながら叫ぶ光くん。
私は両手を広げて、
優くんを受け入れた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!