亜子が自殺してから1ヶ月後。
今日はあの日と同じ雨が降っていた。
憂鬱な登校中、傘を差しながら歩いていると、
両隣に誰かが並ぶ。
顔を覗き込んでくる彼は、
逢沢 優希くん。
通称、優くん。
女子からは『王子』と呼ばれている
クラスの人気者だ。
ぶっきらぼうに答えたのは、
逢沢 光希くん。
通称、光くんだ。
一匹狼で、教室でもひとりでいることが
多い光くん。
見てくれがヤンキーみたいなので
近寄りにくいけれど、
女子の隠れファンがたくさんいる。
彼らは性格こそ真逆だけれど、
見た目はそっくりな双子で、私の幼馴染だ。
優くんはいきなり鞄に
手を突っ込んだかと思えば、
私にお菓子を差し出してきた。
目をぱちくりさせていると、
今度は反対側から頭を軽く小突かれる。
さりげなく寄り添ってくれるふたりに
胸がいっぱいになりながら歩いていると──。
私たちを後ろから追い抜くように
走ってきた女の子が転ぶ。
助けようと彼女に駆け寄る。
優くんがそばに転がっていた
ユリの花束を拾い上げた。
不思議に思いながら、
私は彼女に手を差し伸べる。
お互いの手が触れ合った途端、
ぐわんぐわんと世界が回った。
覚えのある感覚だった。
めまいと同時に、
どくどくと鼓動が加速する。
そして、教室で手首を切り、
血だまりに沈む彼女の姿が頭に浮かぶ。
親友が自殺した日から、
私には近い未来に死ぬ人間が
わかるようになった。
触れた人間の死ぬときのビジョンが
見えるようになってしまったのだ。
あれは間違いなく自殺。
彼女が死のうとしているのかも
しれないと思ったら、声が震えた。
引きつった顔で笑う彼女に、
胸騒ぎがする。
光くんが彼女のスカートに
視線を落とす。
彼女の手を引っ張って立たせる。
すると彼女は優くんから、
ユリの花束を受け取った。
早口でそう言い、
走っていってしまう彼女の背を見送る。
ふたりの会話を聞きながら、
ふと地面にスマホが落ちているのに気づく。
私はスマホを拾い上げる。
ふと視界に入った画面に
映っていたのは……。
【加害者同盟】という配信者が
動画をアップロードしている
サイトのようだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。