突如として現れた配信者の亡霊を前に、
私は優くんと固唾を呑む。
優くんは配信者に命令されると、
無理やり身体を動かされているみたいに、
不自然な動きで私に近づいてくる。
必死に抗っているのが、
優くんの表情から窺えた。
配信者は優くんに、ナイフを手渡す。
無理やり握らされたナイフを
手放そうとしている。
自分の意思に反して、
ナイフをしっかり握りしめて
しまう優くん。
襲いかかってくる優くんを前に、
私は動けなかった。
私はその場から動かずに
優くんを待った。
迎えるように両手を広げた。
優くんは何度も首を横に振りながら、
それでも進む足を止められずに
私の腕の中へとやってくる。
静かにグサリと、
胸にナイフが食い込んでいくのがわかった。
言葉じゃ言い表せないほどの激痛が走り、
私は優くんを抱きしめたまま
その場に座り込む。
痛みで朦朧とする意識の中、
私は優くんの背中をさすった。
泣き叫ぶ優くんを見ていたら、
涙が頬を伝った。
配信者がチラリと隣に目をやる。
するといつのまにそこにいたのか、
会いたくてたまらなかった人が立っていた。
もう会えるはずのない
親友の姿がある。
出血がひどいせいか、
ぼんやりとする頭で、そんなことを思う。
優くんの腕の中でぐったりとしながら、
私は涙を流す。
配信者は気が晴れたのか、
スーッと空気に溶けるように消えていった。
優くんが私の胸に額をくっつけて、
泣いている。
優くんの腕の中にいる私を覗き込んで、
優しく笑う亜子。
でも、視界が真っ暗になっていき、
笑顔も消えてしまう。
生きたい理由はたくさん
あふれてくるのに、
身体の感覚は消えていって……。
私は完全に、意識を失った。
***
目を開けると、
視界に白い天井が広がっていた。
目を瞬かせながら起き上がる。
どうやらここは、病院みたいだ。
病室に優くんの姿はない。
光くんは目を伏せて、
しばらくすると重い口を開いた。
私はすぐに、ベッドサイドに
あったサンダルを履く。
──優くんのところへ行ってくる。
その言葉を言えなかったのは、
光くんから告白されていたのを
思い出したからだ。
***
光くんの告白を断り、
私は優くんのいる病院の屋上へやってきた。
フェンスに手をかけて、
ぼんやりと外を眺めていた優くんが、
目を見開きながら振り返った。
幽霊でも見るような顔だった。
自分の手に視線を落とし、
怯えたように優くんは瞳を揺らす。
震えている優くんを、
これ以上見ていられなかった。
私は優くんのところに歩いていく。
逃げようとする優くんの背に
ぎゅっと抱き着く。
ようやく優くんが、
私のほうを向いてくれた。
いいのかな?と言いながら、
優くんは私を抱きしめる。
私たちは見つめ合い、
お互いの存在を慈しむように唇を重ねる。
(優希END)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。