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優くんに呼び出されて、
私たちは人気のない階段の踊り場に来た。
ここで離れないと、
ふたりまで傷つくことになる。
そう思って申し出たのに……。
ふたりから返ってきたのは、
デコピンだった。
ふたりが声を揃えて言うものだから、
ついくすりと笑ってしまった。
ふたりの笑顔を見ていたら、
少しだけ不安が和らいだ気がした。
***
学校を早退して、
光くんと優くんの家にいると……。
──♪~♪~♪~
私のスマホが鳴り、
ディスプレイを確認すると両親からだった。
通話ボタンを押して、
スマホを耳に当てる。
声をかけると、少し沈黙が続いた。
そう思って、次は少し大きな声を出す。
若い男の声だった。
嫌な汗が背中を伝う。
電話がそこでぷつりと切れてしまい、
しばらく放心して動けなかった。
優くんの質問に答えようとして、
すぐに口をつぐむ。
スマホをスカートのポケットに突っ込んで、
急いで向かいにある自分の家を目指す。
鍵で扉を開けて中に入ると、
恐ろしいほど静かだった。
私は深呼吸をして、
ゆっくりとリビングに向かう。
リビングにはクラスの男子が数人いた。
戸惑いながら
部屋に視線を巡らすと……。
お父さんとお母さんは、
椅子に座った状態で縛られていた。
ガムテープで口を塞がれているふたりは、
逃げろと目で訴えている。
私がすぐに駆け寄ろうとすると──。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!