前の話
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これは中学生の時に読んだ本に書いてあった話だ。
―――――運命の人に会える確率は低い。
世界には数えきれないくらいたくさんの
人が生きているから。
もし会えたとしても分からないかもしれない。片方が気づく場合もあれば、両方が気づく場合も、はたまた両方が気づかない場合もある・・・。
だからこそ巡り会えたことが奇跡なんだと
皆が言うのだと私は思う――――――
『自分の将来を見つめるため旅に出ます。何かあったら連絡下さい。』
そう書き残して、私は冬休みに旅に出た。行き先は星がきれいに見える町。田んぼが沢山あるような田舎の町。旅といっても2泊3日だけの小規模な家出だ。旅館代やら交通費やらを考えると、これが限界だった。それでも私は一度、なんにも無いところで心の整理をしたかった。ぐちゃぐちゃなこの心を。
「永島琳佳さん、後で職員室に来てください。」
昼休みの前の授業で先生からそう言われた私は、昼休みに入ってすぐに職員室に向かった。
「失礼します。」
コンコンと2回ノックをして、私は先生の座る机に向かった。私が来たと分かると先生はこちらに身体を向けて話し始めた。
「永島な、そろそろ進路決めようよ。もう冬休みだぞ。」
そう・・・私はいまだに進路が決まっていない。高校生活3年の中でやりたいことは見つからなかった。ただ、ぼんやりと高校という社会を生きていた。しかしそろそろ決めなければ、私は何もない大人になってしまう。
「就職か進学か、まずそこからだけど、成績はそこそこ取れてるからどちらもいける。やりたいこととか興味あることとか無いのか?」
「特には・・・。」
本当に何も浮かばなかった。 それに考え始めると、思い出してしまうのだ。
『あんたなんか生きてる資格無いのよ!!』
母のその言葉を・・・。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!