会いに行く日、時間までもう少し。
柄にもなく緊張して震える手の平を畑のメンバーが笑う。
恋ですか?なんて口々に言うから笑って誤魔化した。
「個室から出ないのであれば是非。」
看護師さんが高くて
弾んだ声で撮影を許可してくれた。
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病室の目の前、心臓が高鳴りすぎて痛い。
中からは小さく笑う声が聞こえた。
「はじめまして!」
元気よく、勢いよく扉をあけると
小さくて真っ白な肌をした女の子が母親と思われる人に髪を結ってもらうところだった。
「あっ。」
小さく声を上げて嬉しそうに笑う目の前の女の子はイメージ通りの可愛らしい子だった。
母「いやだ、お母さん不器用だから間に合わなかったね…。」
あなた「ううん、私が髪の毛まとめたらぐちゃぐちゃになっちゃうもん。」
仲良さそうに話している。
簡単に結んで、会釈をしてお母さんが病室を出た。
畑のメンバーは僕に耳打ちをした。
じゃあ、少しの間僕たちも抜けとくんで、
ニヤニヤと笑う顔にムカつく余裕もない。
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イメージ通りの可愛らしい子、そう思っていたけど実際は違った。
イメージよりもずっと可愛い。
僕よりも二回りくらい小さな手の平を叩いて笑ったり、照れているのか時々頬が赤くなる。
真っ黒な髪の毛は揺れるたびにいい匂いがした。
はじめ「心臓…って聞いたけど笑わせて大丈夫?」
あなた「はい、心臓って言ってもすぐに死んじゃうような病ではなくて、別の病気も絡んでて手術できないってだけなので。」
一瞬表情が曇った後にまたすぐに笑顔になった。
小さい体で手術なんて、ましてや他の病気もあるのならなおさら不安だろう。
はじめ「あなたちゃんは強いね、でもね心配かけてもいいと思うよ?無理に笑うとお母さんたちも不安だよ。」
そういうと、ぽろっと一粒涙が溢れた。
あなた「あれ…おかしいな。悲しくないのに。」
はじめ「…またごまかそうとしてる、僕だって分かるんだから家族はもっと分かるよ。あなたちゃんは頑張ってるんだから不安な気持ちまで押し込めることないんだから。」
白い掛け布団に涙が落ちて染み込んでいく。
うつむいてしばらく何も言わなかった。
だから小さい手の平に僕の手を覆いかぶせた。
少しびっくりした顔して赤くなった目でありがとうと呟くあなたちゃんは、陽に照らされて天使のようだった。
白い肌も笑顔も、無理をしてしまう優しさも。
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−帰り道−
「…撮影してなくないっすか。」
……してないわ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!