(※)タイトルに入りきらなかったので。Chapter2-9になります。)
「込み入ってるとこ、ごめん」
そう一言添えてから。
「学校には、今さっき俺連絡しといたから」
「え……っ」
あれ。私、この人に自己紹介なんて、したっけ?
きょとん。と一瞬何かの小動物みたく、私は固まってしまっていた。
「あれ。私、自己紹介しましたっけ……?」
思わず本音が漏れる。
「これ、忘れてる」
片手で私に突き出したのは、いつも通学に使っているボストンバッグ。
「……あ」
「悪いけど、中見させて貰ったよ。ごめんね」
口では悪いけどって言いつつも。大して悪びれる様子も無く呟いた。
「何て言うか、電話とかする余裕も無さそうだったし」
お礼を言うタイミングを逃した私は、ボストンバッグを差し出されたままに受け取って。加藤さんは、その様子を黙って小さな微笑をたたえながら見つめてる。
向こうの方を、色んな人が通りすぎていくのが横目に映って。
「あっ。でも全然問題ないと思うよ。事態が事態だしね。ちゃーんと先生には、説明しといたから、うん」
……えっと。
さっきまで駅員室ではやる気無さそうに携帯いじってたかと思ったのに。
……携帯拾ってくれた時もそうだったけど、意外にしっかり、してる。
「君、しっかりしてるね」
そんな私の心の声を拾うかの如くの加藤さん。
「いやいや、これくらいは別に」
髪の毛をかきあげて、視線を反らす彼。
「って言うか、流石に痴漢被害とかはヤバいと思うし」
「いつから、気付いてたの?」
「えっ何が」
「あの、私が痴漢にあってること」
「いや別に。いつからとか分かんないけど」
「えっ?!」
「いや、気配っていうか……あるじゃんそういうの」
(何この人……エスパーか、何かとか。ちょっとした第六感の鋭い、人とか…?)
「嘘うそ☆たまたま目の前にオッサンが居たんだよ。たまたま。したら、まぁそのーー一部始終がさ、見えちゃったって言うか」
そっか。
「助けてくれたの、……ありがとう」
今更ながらのお礼だけど。一応、助けてくれた訳だし。最低な犯人もお陰で捕まえられたんだもんね。
「うん。お礼はカフェラテでいいよ」
「えっ?」
にやり。と彼は笑った。……え?
「奢るの?私が」
「えっ?うん」
「それ、ちょっと……違くない?」
「何で?」
「…………」
何て言うか、全然疑い無いって表情で。
どこから突っ込んだら良いのやら。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。