(※)タイトルに入りきらなかったので。Chapter2-10になります。)
何て言うか、返す言葉に戸惑っていると加藤さんが助け船を出してくれた。
(加藤さん)「ところで、二人の制服……美園学園高校のだよね」
(私)「あ……はい、、」
(彼)「まぁ……そうですね」
加藤さんの様子を見る限り、この駅で普段働いている女性なんだろうな……っていうことは想像に難しくなくて。
きっと、私達と同じ衣服を身に纏う“学生”をたくさん見てきたんだろうな、ってぼんやりと受け答えしながら考えてた。
(加藤さん)「私も実は、美園の出身でね」
(私)「え……っそうなん、ですか…?!」
ここに来ての大先輩の小さな告白に、少しだけ驚いてしまう。
(加藤さん)「うん。私の時と制服も変わってないし。懐かしいな……私、生まれてからずっとこの街で育ってね」
加藤さんの目は、少しだけ何か遠い昔を思い出すように、明後日の方向を見つめていた。
「……大きくなって、この街の生活を見守ったり支えたりするこの仕事に縁があって付いたわけなんだけど。今回みたいなことは初めてっていうか……」
そこまで喋って、慌てて何かを思い出したように取り繕う。
「あっ、別にね、変な酔っぱらいが騒いだりして警察に来て貰ったこととかは、もちろんあるの。……守秘義務があるし、詳しくは話せないけどね。……だけど、痴漢を捕まえるなんて、今回のことは初めてよ。しかも高校生の君が捕まえるなんてーー」
彼は、そんな加藤さんの様子をあまり表情も変えずに見守るように見つめていて。
「だって」
そこで小さく息を吐いた。
「痴漢って、中々捕まらないのよ。私ももう少し若いときに痴漢にあったことがあったけど」
少しだけ表情を歪ませる。
「泣き寝入りね。恥ずかしかったし、怖かったし……親になんて到底言い出せなくて。ーーだから、犯人が捕まって本当に嬉しいの」
加藤さんは少しだけ、目を潤ませていた。
私はなんていうか、居ても立ってもいられない気持ちになったけど。何の言葉も思い付かなくて。
「君、大手柄ね」
加藤さんは、艶やかな赤色のグロスが映える口角をキュッと上げて彼に微笑んだ。
「いや、まぁ……」
彼がしどろもどろに応答しようとしていると、加藤さんがこう続けた。
「あっ。警察の到着、みたいね」
私も彼も、加藤さんの視線が指す方向を見ると、確かに青い制服に身を包んだ如何にも“警察”の人が何人か既に歩いていた。
「話も途中と言えば、途中だけど……仕方ないわよね。……いきましょっか」
加藤さんの静かな微笑みは、これからどうなるのか小さな不安を抱える私に、少しだけ安らぎを与えて。
私達3人は、歩き出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!