第22話

二人だけの午後の欠席 #1
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2019/03/13 17:20
“Chapter 2-12 始まるなら、それが 〜二人だけの午後の欠席 #1〜”


それから、時間にして30分後。

何故か私達は、駅前のカラオケボックスに居たーー

「涙は〜〜いつだって〜〜〜〜」

どこかで聞いたことのある、数年前に流行った定番ソングを熱唱する浪川くんもとい颯麻。

(意外と…っていうか、歌……めっちゃうまい…んだ……!いやいや、そうじゃなくて…)

とか何とか、何だかザワザワしてしまいつつ彼の熱唱ぷりを横目に見守る。

何て言うか、学校をサボるなんて生理痛が酷くて仮病を使ったこと位しか無い私にとって、何て言うかハードルが高いよ、この状況はさ……とか何とか思っていると、熱唱をひとしきり終えた颯麻がこっちを向いて、

「次、良かったらどう?エミちゃんも」

とかあどけない表情で順番を振ってくる。

私はぶんぶん、と頭を振った。

「そう?歌いたくなったら言ってね。いつでも変わるから」

そう言いながら、もう次の曲を入れてる。


ーー音楽、好きなのかな。


そんなことを思いつつ、ぼんやり彼の熱唱する姿を見守る。次の曲は割りと最近のちょっと激しいロック風のボーカロイドの曲。

何て言うか、色んなジャンルでも器用に歌えるのかな……

「エミちゃん」

「わっ」

立ってマイクを持って歌っていたのに、急に私の横に腰を下ろすから、何だかびっくりしちゃった。

「えっと……」

「だよね、こんな状況慣れないよね。俺も一緒」

「え?」

「うん。あんなことあるとさ、教室行ってもどうせ授業に集中出来ないでしょ」

「まぁ……」

何だかその続きは色んな意味で言葉にならなくて。
初めて痴漢に遭ったこととか、あんまりよく知らない男の子と二人っきりでカラオケにいることとか、学校をサボっちゃったこととか色々あるけど。

(まぁ学校には、痴漢に遇って大変だったので…今日はとてもじゃないけど授業に出れそうに無いって連絡したけれどさ……)

ただコクコク、と私は頭を縦に振った。

「だから、歌って少しでもスッキリ出来たらって思って……。でもしんどかったら言ってね。歌やめて、ぼーっとしても良いし。下校時間過ぎるまで」

「って言うか……な、慣れてますよね、サボるの」

「うん?別に。大したことないよ、たまにしか来てないし」

(何だかさらっと重大発言……!)

「あ、あとほんとタメ口でいいよ。俺、同級生だし……」

「えっ?!」

衝撃の事実、発覚。

「お、同じ歳だったんですか?じゃなくてーーだったんだ」

「うん、クラスは違うけど」

(おかしいな、こんな人居たっけな……居たらもっと目立ちそうなのに…)

目の前に居る、彼の姿を改めて見つめる。無造作に跳ねたふわっとした癖毛と、くりくりっとした瞳。
緩く着崩したブレザーのカッターシャツから覗く赤色のシャツ。

その姿は、どちらかと言えば間違いなく目立たない方なんかじゃなくて。

(何で、気付なかったんだろう……)

「俺、5組で端っこだしね、教室も。あとけっこう欠席多いから」

まるで、私の気持ちを読んだみたいに補足説明してくれる。ちなみに私は2組。校舎と学年の関係で1〜3組と4〜5組は確かに教室のある階も違う。
だけど。こんなに気付かないもの…?

「欠席……」

「うん。まぁ普通はヒくよね。まぁ気にしないで」

にこ、と微笑んだその顔は屈託がなくて。

(どっちか、って言えばちょっと良い感じ、なのに)

少なくとも、苛められていたりとか何かコンプレックスがある感じには見受けられない。

「俺、飲み物無くなったから取ってくるね」

そこまで話したところで、話題とこの場の空気を変えるみたいに立ち上がった。

「良かったらエミちゃんのも取ってくるけど」

私の方を見て、首をかしげる。

「えと、紅茶……で」

「おっけー、紅茶ね」

そこまで聞くと、何の紅茶・・・・かも聞かずに、颯麻はドリンクバーに向かってしまった。

私は何だかぼんやりと、閉まった扉の磨りガラス越しに遠ざかっていく彼の姿を眺めていた。

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