須藤くんとは、今朝、話をしたばかり。千春ちゃんもいないのに、なんの用だろう。
教室で話しかけられたせいか、クラスメイト達にウワサされてしまった。
須藤くんは、人気者だから。あたしなんかと話すのは、不自然なんだろう。
「おい、お前ら! 冷やかすなよ」
そう言ってクラスメイト達と楽しそうに笑う須藤くんは、あたしとは別の世界を生きているように見えた。
これも、委員長の仕事なんだろうか。今まで友達付き合いをしたことが無かったからか、人との距離感がうまく掴めない。須藤くんとの間に、見えない壁のようなものを感じる。
母が帰ってくると聞いたせいで、気持ちがナーバスになっているんだろうか。それとも、千春ちゃんとのすれ違いが尾を引いているんだろうか。
そのどちらかも知れないし、どちらでもないのかも知れない。
無条件な優しさは、あたしの感情をかき乱した。
※
須藤くんなら、千春ちゃんとケンカすることも無かったはず。
須藤くんなら、千春ちゃんの気持ちを理解できたはず。
かき乱された感情は、自分への怒りになり、モヤモヤした感情を須藤くんへと向けてしまった。
こういう所が、人から嫌われる原因のひとつなんだろう。そんな、自己分析しながら。
須藤くんが言いにくそうに、顔をしかめた。彼ほどの人が言いづらいこととは、一体なんだろう?
あたしはだんまりを決め、須藤くんの言葉を待った。
違うって、信じてたのに。
須藤くんは違うって、信じてたのに。
『聞いていたら、あきらめた?』
『千春ちゃんの態度は、あきらかに変だった』
千春ちゃんに、なんて謝ればいいの?
千春ちゃんと、もっと仲良くなりたい。千春ちゃんのことをもっと知りたい。その気持ちに嘘はないのに。
初めての友達とのトラブル。そして、演劇への憧れ。あたしは頭がいっぱいになった。
だから、自分の口から出た言葉がどんな意味を持っているのか。想像すらしなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。