自分がどうしたいのかが、分からない。
そもそもあたしは、紅さんとどんな関係になりたいんだろう?
あたしは無言のまま、紅さんを眺めた。
紅さんは、顔を真っ赤にして叫ぶ。
地見先輩は、からかうように紅さんの肩をひじで小突いた。
梨々花ちゃんの呟きに、紅さんは「あっ」と、顔をしかめた。
まるで、言ってはいけないことを口にしてしまったみたいに。
紅さんが恥ずかしそうに首すじを撫でる。その時、細い手首に巻かれたブレスレットがキラリと光った。
あたしの悩みなんか置いてきぼりのまま、紅さんはみんなと打ち解けていく。
紅さんは、あの頃のまま変わらない。
誰とでも、すぐに仲良くなれる。
あたしとは、違って……。
紅さんがあたしを羨ましいと思うように。あたしもずっと、羨ましいと思っていた。
誰とでもすぐに仲良くなれる、紅さんのことを。
バツが悪くなり、あたしはそっぽを向いた。
杏子おばさんの言葉に、あたしは怒り出しそうになった。
そんな訳ない。好きなんかじゃない、大嫌いだと。
だけど、できなかった。どうしても言えなかった。
紅さんを「嫌い」だとは……。
それは、本当にない。
梨々花ちゃんの的外れな答えに、あたしはガックリと肩を落とした。
地見先輩がニヤリと笑う。
千春ちゃんがグイッと、地見先輩の腕を引く。
夏目さんへの気持ちを知られる訳にはいかない。
あたしは慌てて、地見先輩の言葉を遮った。
あたしの言葉に、みんなは目を丸くした。
そして少しの沈黙の後。千春ちゃんが、気まずそうに口を開いた。
ハッとなって、地見先輩の方へ視線を向ける。地見先輩は小刻みに肩を震わせながら笑いをこらえていた。
あたしは込み上がる恥ずかしさに身悶えた。
地見先輩の手のひらで転がされているようで、あたしはムッとした。
それでも。ほんの少しでいいから、地見先輩を困らせたい。
だって、どんなに意地悪されても、嫌いになんてなれないから。
地見先輩のことも。
紅さんのことも……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。