第112話

第111話「好き嫌い」
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2023/03/28 13:42
小田原 キララ
小田原 キララ
(自分で決めなさいって)
小田原 キララ
小田原 キララ
(そんなこと言われても……)
 自分がどうしたいのかが、分からない。

 そもそもあたしは、紅さんとどんな関係になりたいんだろう?
小田原 キララ
小田原 キララ
梨々花ちゃんの友だち友だちの友だち?)
小田原 キララ
小田原 キララ
(それとも……)
 あたしは無言のまま、紅さんを眺めた。
地見ちみ部長
まあ、後は本人同士の問題やな?
紅 色葉
紅 色葉
……そう、ですね
地見ちみ部長
自分、何しょぼくれてんの?
地見ちみ部長
さっきは、ノリノリやったん。『あのギリギリエンジェルのキリエル!?』ってさ
紅 色葉
紅 色葉
そ、それは!
紅 色葉
紅 色葉
全部、アンタがやれって言ったからでしょ!?
 紅さんは、顔を真っ赤にして叫ぶ。
地見ちみ部長
えぇ? ウチ、そんなん言うたかな?
紅 色葉
紅 色葉
アンタねえ……!
地見ちみ部長
もしかしてホンマに、ウチのこと好きやったりする?
 地見先輩は、からかうように紅さんの肩をひじで小突いた。
紅 色葉
紅 色葉
ち、違うわよ!
紅 色葉
紅 色葉
わたしは、ただ。ギリエンが好きなだけだから!
桐山 梨々花
桐山 梨々花
……今の……
 梨々花ちゃんの呟きに、紅さんは「あっ」と、顔をしかめた。

 まるで、言ってはいけないことを口にしてしまったみたいに。
桐山 梨々花
桐山 梨々花
本当にー!?
桐山 梨々花
桐山 梨々花
ギリエンのファンなのは、ガチだったんだ!
桐山 梨々花
桐山 梨々花
推しは? 推しは、誰!?
紅 色葉
紅 色葉
えっと、ラウル……
 紅さんが恥ずかしそうに首すじを撫でる。その時、細い手首に巻かれたブレスレットがキラリと光った。
桜木 千春
桜木 千春
それ、ギリエンのファングッズの!?
紅 色葉
紅 色葉
そうだけど?
桜木 千春
桜木 千春
いいな……
桜木 千春
桜木 千春
私も欲しいんだけど、見つからなくて
紅 色葉
紅 色葉
そうなの?
紅 色葉
紅 色葉
アニメグッズの専門ショップで、売ってたわよ
桜木 千春
桜木 千春
そうなんだ
桜木 千春
桜木 千春
行ってみたいけど、他のアニメ知らなくて……
紅 色葉
紅 色葉
別にいいんじゃない? わたしだって、そんなに詳しくないもの
紅 色葉
紅 色葉
よかったら、一緒に行く?
桜木 千春
桜木 千春
えっ? ……いいの?
小田原 キララ
小田原 キララ
(紅さんは、すごいな……)
小田原 キララ
小田原 キララ
(もう、みんなと仲良くなってる)
 あたしの悩みなんか置いてきぼりのまま、紅さんはみんなと打ち解けていく。
 紅さんは、あの頃のまま変わらない。
 誰とでも、すぐに仲良くなれる。
 あたしとは、違って……。
小田原 キララ
小田原 キララ
(どうしたいかなんて、そんなの)
小田原 キララ
小田原 キララ
(本当は、とっくに決まってる……)
 紅さんがあたしを羨ましいと思うように。あたしもずっと、羨ましいと思っていた。

 誰とでもすぐに仲良くなれる、紅さんのことを。
杏子おばさん
杏子おばさん
あらあら
杏子おばさん
杏子おばさん
若い女の子は、元気ね?
小田原 キララ
小田原 キララ
……そうだね
杏子おばさん
杏子おばさん
キララは、いいの?
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしは……別に
 バツが悪くなり、あたしはそっぽを向いた。
杏子おばさん
杏子おばさん
本当に?
杏子おばさん
杏子おばさん
素直にならなくて、いいの?
小田原 キララ
小田原 キララ
(素直にって……)
小田原 キララ
小田原 キララ
(別に、平気だし)
小田原 キララ
小田原 キララ
(今が、素直なあたしだもん……)
杏子おばさん
杏子おばさん
好きなんでしょう? 本当は
小田原 キララ
小田原 キララ
なっ!?
 杏子おばさんの言葉に、あたしは怒り出しそうになった。

 そんな訳ない。好きなんかじゃない、大嫌いだと。

 だけど、できなかった。どうしても言えなかった。

 紅さんを「嫌い」だとは……。
桐山 梨々花
桐山 梨々花
え、もしかして! キララちゃんも……
桐山 梨々花
桐山 梨々花
ラウル推し?
小田原 キララ
小田原 キララ
ち、違うからね?
 それは、本当にない。

 梨々花ちゃんの的外れな答えに、あたしはガックリと肩を落とした。
地見ちみ部長
そやな。本命が居てるし
地見ちみ部長
キララちゃんには……
 地見先輩がニヤリと笑う。
小田原 キララ
小田原 キララ
なっ!
小田原 キララ
小田原 キララ
(それって……)
小田原 キララ
小田原 キララ
(夏目先生のこと!?)
桜木 千春
桜木 千春
ちょっと、先輩!
 千春ちゃんがグイッと、地見先輩の腕を引く。
桜木 千春
桜木 千春
……社長の前ですよ?
地見ちみ部長
そうやった。社長はキララちゃんの、おばさんやもんな?
紅 色葉
紅 色葉
ねえ、それなんの話?
地見ちみ部長
ああ、それはやな──
小田原 キララ
小田原 キララ
だ、ダメっ!
 夏目さんへの気持ちを知られる訳にはいかない。

 あたしは慌てて、地見先輩の言葉を遮った。
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしが好きだってこと、言わないで!!
 あたしの言葉に、みんなは目を丸くした。

 そして少しの沈黙の後。千春ちゃんが、気まずそうに口を開いた。
桜木 千春
桜木 千春
あの、キララちゃん……
桜木 千春
桜木 千春
勘違いしてるみたいだから、言っておくね?
桜木 千春
桜木 千春
社長の前で言いにくいのは、アリー役の声優さんが、ライバル社の所属だからなの
小田原 キララ
小田原 キララ
ライバル社の所属?
桜木 千春
桜木 千春
そう。だから、社長の前では言わないほうがいいかなって
桜木 千春
桜木 千春
キララちゃんが、アリーのファンだってこと
小田原 キララ
小田原 キララ
え、それじゃあ……
小田原 キララ
小田原 キララ
(地見先輩の言ってた、本命って……)
 ハッとなって、地見先輩の方へ視線を向ける。地見先輩は小刻みに肩を震わせながら笑いをこらえていた。
小田原 キララ
小田原 キララ
なっ、なっ、なっ!
 あたしは込み上がる恥ずかしさに身悶えた。
小田原 キララ
小田原 キララ
ああ、もう……!
小田原 キララ
小田原 キララ
地見先輩の意地悪っ!
地見ちみ部長
まぁまぁ、そんな怒らんといてーや。ホンマに好きな人は、バラしてへんし
小田原 キララ
小田原 キララ
別に! ……怒ってなんか、いませんから!
 地見先輩の手のひらで転がされているようで、あたしはムッとした。
地見ちみ部長
えぇ。じゃあ、グレてもうたん?
地見ちみ部長
それは、困ったなぁ
小田原 キララ
小田原 キララ
(全然、困ってるようには、見えないんですけど!)
 それでも。ほんの少しでいいから、地見先輩を困らせたい。

 だって、どんなに意地悪されても、嫌いになんてなれないから。

 地見先輩のことも。



 紅さんのことも……。

小田原 キララ
小田原 キララ
あたしだって……
小田原 キララ
小田原 キララ
好きでグレてる訳じゃないんだからね?

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