あたしは慌てて周囲を見渡した。幸い、人の気配はなかった。
急に会うことになるなんて、思ってもみなかった。それどころか、十年ぶりの再会なのに、ちっとも実感がわかない……。
千春ちゃんは、あたしの母に会いたいかもしれない。だけどあたしは、母の力に頼らず、自分の力で千春ちゃんと仲直りしたい。
ちゃんと向き合って、話がしたい。だって千春ちゃんは、あたしの友達だもの。
バカにされるかと思ったのに。やっぱり、須藤くんはいい人みたいだ。
なんだろう?
演劇のことだろうか?
それとも、母に会いたいとか、そういうことだろうか?
千春ちゃんと母を会わせるということは、あたしが母と仲直りすること……。
むずかしいかもしれない。でもこれは、千春ちゃんのためでもある。当然、イヤとは言えない。
須藤くんが、自分のことのように喜びをうかべる。自分以外の人の幸せを願える。こんな人だから、みんなに好かれるんだろうな。
須藤くんの嬉しそうな顔を見て、ふとそんなことを考えた。
※
結局、千春ちゃんと話ができないまま、放課後を向かえた。終了を知らせるチャイムと同時に、千春ちゃんが席を離れる。
千春ちゃんが足を止め、振り返らずに聞いた。
あたしが言い淀んでいると、教室からは一人、また一人と、クラスメイトが去っていく。
千春ちゃんが振り返る。なにかを決意した顔で。
それからしばらくの間、あたしたちは互いに謝り続けた。
お互いに傷つけあって、謝りあって。すれ違っていたはずなのに、なぜか、前よりも仲良くなれた気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。