第50話

第49話「大切な人」
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2021/12/07 11:00
須藤 春樹
須藤 春樹
小田原の、母親って……
須藤 春樹
須藤 春樹
あの・・エミリージョーンズが!?
小田原 キララ
小田原 キララ
ちょ、ちょっと!! 声、大きいよっ!
 あたしは慌てて周囲を見渡した。幸い、人の気配はなかった。
小田原 キララ
小田原 キララ
もうっ! そんなに大きな声で、言わないでよ
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしだって、ビックリしてるんだから!
 急に会うことになるなんて、思ってもみなかった。それどころか、十年ぶりの再会なのに、ちっとも実感がわかない……。
須藤 春樹
須藤 春樹
大女優とはいえ、小田原にとっては母親だろ?
須藤 春樹
須藤 春樹
なのに、なんで落ち込むんだよ
小田原 キララ
小田原 キララ
だって……
小田原 キララ
小田原 キララ
(お母さんに捨てられたから、だなんて)
小田原 キララ
小田原 キララ
(そんな話、須藤くんには、言えないな……)
須藤 春樹
須藤 春樹
せっかく、桜木と仲直りするチャンスなのに
小田原 キララ
小田原 キララ
……
小田原 キララ
小田原 キララ
なんで、そうなるの?
須藤 春樹
須藤 春樹
だって桜木は、エミリージョーンズの大ファンだろう?
須藤 春樹
須藤 春樹
会えるかもって言ったら、喜ぶんじゃないか?
小田原 キララ
小田原 キララ
そうかも、しれないけど……
 千春ちゃんは、あたしの母エミリージョーンズに会いたいかもしれない。だけどあたしは、母の力に頼らず、自分の力で千春ちゃんと仲直りしたい。

 ちゃんと向き合って、話がしたい。だって千春ちゃんは、あたしの友達だもの。
小田原 キララ
小田原 キララ
それは、イヤ
須藤 春樹
須藤 春樹
なんで?
小田原 キララ
小田原 キララ
誰かを利用するような方法で仲直りしても、意味がないと思う
小田原 キララ
小田原 キララ
あたしは、これからも千春ちゃんの友達でいたい
小田原 キララ
小田原 キララ
だから……。
時間がかかっても、自分の力で仲直りしたい!
須藤 春樹
須藤 春樹
……へぇー
須藤 春樹
須藤 春樹
えらいじゃん
小田原 キララ
小田原 キララ
そ、そうかな?
 バカにされるかと思ったのに。やっぱり、須藤くんはいい人みたいだ。
小田原 キララ
小田原 キララ
(よかった……)
須藤 春樹
須藤 春樹
じゃあさ、俺の頼みも、ついでに聞いてくれない?
小田原 キララ
小田原 キララ
須藤くんの、頼み?
 なんだろう?

 演劇のことだろうか?

 それとも、母に会いたいとか、そういうことだろうか?
須藤 春樹
須藤 春樹
もし、桜木と仲直りできたら……
小田原 キララ
小田原 キララ
うん
須藤 春樹
須藤 春樹
小田原の母親に、会わせてほしい!
須藤 春樹
須藤 春樹
桜木を
小田原 キララ
小田原 キララ
千春ちゃんと?
小田原 キララ
小田原 キララ
(どうしよう……)
 千春ちゃんと母を会わせるということは、あたしが母と仲直りすること……。

 むずかしいかもしれない。でもこれは、千春ちゃんのためでもある。当然、イヤとは言えない。
小田原 キララ
小田原 キララ
わかった
小田原 キララ
小田原 キララ
千春ちゃんと仲直りしたら、お母さんと会ってもらう
須藤 春樹
須藤 春樹
よかった……!
サンキュ、小田原
 須藤くんが、自分のことのように喜びをうかべる。自分以外の人の幸せを願える。こんな人だから、みんなに好かれるんだろうな。

 須藤くんの嬉しそうな顔を見て、ふとそんなことを考えた。

小田原 キララ
小田原 キララ
(でも、どうしたらいいんだろう?)
 結局、千春ちゃんと話ができないまま、放課後を向かえた。終了を知らせるチャイムと同時に、千春ちゃんが席を離れる。
小田原 キララ
小田原 キララ
待って! 千春ちゃん!
桜木 千春
桜木 千春
……なに?
 千春ちゃんが足を止め、振り返らずに聞いた。
小田原 キララ
小田原 キララ
えっと……
 あたしが言い淀んでいると、教室からは一人、また一人と、クラスメイトが去っていく。
桜木 千春
桜木 千春
私、今日、塾なんだけど
小田原 キララ
小田原 キララ
あ、ごめん……
桜木 千春
桜木 千春
じゃあ、行くね?
小田原 キララ
小田原 キララ
待って!!
小田原 キララ
小田原 キララ
あの、劇のことなんだけど
小田原 キララ
小田原 キララ
あたし、本当に知らなかったんだ……
小田原 キララ
小田原 キララ
ごめん、ね?
千春ちゃん……
桜木 千春
桜木 千春
それは、もういいの
桜木 千春
桜木 千春
だけど……だけどね!?
 千春ちゃんが振り返る。なにかを決意した顔で。
桜木 千春
桜木 千春
次からはっ!
桜木 千春
桜木 千春
ちゃんと、話して?
桜木 千春
桜木 千春
私、本当は寂しかったの……
小田原 キララ
小田原 キララ
寂しかった?
桜木 千春
桜木 千春
うん
桜木 千春
桜木 千春
だって、キララちゃん……。自分のこと、なんにも話してくれないし……
小田原 キララ
小田原 キララ
それは……
桜木 千春
桜木 千春
事情があるんだよね? そう思って、聞かないようにしてた
桜木 千春
桜木 千春
……だけど
桜木 千春
桜木 千春
須藤くんには、言うんだって。そう、思ったら……
小田原 キララ
小田原 キララ
ごめんなさい!
桜木 千春
桜木 千春
ううん。私こそ、ごめんね?
桜木 千春
桜木 千春
子どもっぽい感情で、キララちゃんのこと、避けたりして
小田原 キララ
小田原 キララ
ううん! あたしが悪いの
 それからしばらくの間、あたしたちは互いに謝り続けた。

 お互いに傷つけあって、謝りあって。すれ違っていたはずなのに、なぜか、前よりも仲良くなれた気がした。

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