どうしてこうなった…。
川口の隣に、『僕にも入らせて貰えませんでしょうか!!』と言い出した彼が座っている。
とりま、座ろうか。と言ったもの…この雰囲気どうすればいいんだ。
彼にも言ったものその後どうしようかと悩んでいるようだった。
勇気を絞ったのか、彼が話し始めた。
なるほど、盗み聞きしていたからなのか((殴
それで面白そうだなと思い、僕もやりたいだと思い始めたのだろうか。
名前も君のことについても何も知らない。
その上、夏なのに長袖長ズボンとかあんまり見かけない顔だから余計に……《謎の男》として心の中のどこかで入れることを拒否している。
はぁ…お前は、なんでも軽々しく考えすぎなんだよ。
そうと目で訴えると、伝わったのか川口はてろっ。と舌を出す。
この会話を、彼は目で追うと楽しそうに微笑んでいた。
もう言ってしまったんだから、頑張れ僕。
チャンスはもう無いかもしれないぞ。
この2人なら大丈夫。…大丈夫なんだって思えるんだ。なんで…なんでだろうなぁ…。
僕は、両手をテーブルに置き…口を開いた。
右手の指を3本立てる。
頭を深く…深く下げた。
しばらくじっと、見ていた川口が頭を下げている彼の肩に手を置きながらそう言う。
パァッと彼は顔を上げた。向日葵みたいな笑顔がそこにあった。
それに対して、川口は渋々している。
川口は、両手をグーにして顎に当てて彼にぶりっ子風の話し方にして聞く。
彼にも明らかにちょっと引いている。
そこからだんだん気まずい雰囲気になって行くのはごめんだ。
お前、そろそろやばいぞ……。と言う哀れな目で見てやった。
本当に…ドMなんだな。と改めて実感した。
この会話が面白かったのか彼は、笑いで出てきた涙を拭きながら『ごめんごめん』と言う。
これが初めて見た彼の笑顔だった。
なんだ笑えるじゃん。僕達と話してからずっと緊張している顔で少しだけ…心配だったんだよなぁ。
僕と川口は、息を合わせてGoodポーズを作った。
また、川口らしいことが思いついたのか…ニヤニヤしながら川口は神谷の肩をたたく。
早速ハグし、キスの形を作る川口に恥ずかしそうに『キスはやめてくださいよ〜!』と言う神谷。
なんだかんだ楽しそうで見ている僕まで自然と笑顔になっていた。
神谷の敬語はなかなか直らないそうだ。まぁ、少しずつ話して…気がつけば敬語が消えていたらいいなぁ。
荷物を手にすると、神谷は困った顔をする。
な、なんだと…!?
カラオケというものが知らないだ…と…??それは、いかん。こいつは今まで何してたんだ…。
僕は、テーブルを叩くと叫んだ。
今まで冷静で、取り慌てることもない僕が突然大声で言うもんだから神谷は少しびびっていた。
しかし、この感情を抑えることは出来ない!!
神谷の隣に、『出てしまったなぁ。』と薄い目で見ている川口が見えた。川口よ…すまない!!
神谷の腕に手を回し、僕はあんみつ屋から出る。
猛ダッシュしている鈴木に、引きずられているように走っている神谷がまだ微かに見える。うわぁ……。
それしても、かけっち…(翔のあだ名です。)僕を置いていくのは酷いっすよぉぉぉおお!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。