運んできた いつものあんみつを口へ運びながら、これからどうするか。川口と話し合っていた。
あんみつ2皿食いながらそのセリフを言うのか…お前は。全く…食いしん坊かよ。
川口は、指を鳴らして二カッと笑う。
『マジ、あの人笑えるんだけどw』
川口の言いかけに、女子の声が聞こえた。
僕も、川口もその方へ振り向いた。
そこに居たのは、同じクラスの女子2人だった。
どうやら、2人が見て嘲笑っていた〈もの〉は、さっき見かけた長袖長ズボンの男子高校生の事だった。
川口の笑顔がだんだん消えていくのが分かった。
川口は、こうやって誰かを見下して嘲笑うのが大嫌いだ。何故なら…この人も前、同じような事をされた体験があるからー。
『髪の毛も灰色だし、おじいちゃんじゃん!ww』
『ちょーウケるw 長袖長ズボンとか、肌おかしいんちゃう??w』
一瞬にして周りの顔が暗くなる。店のおばさんも困惑していた。
そして、何よりも…嘲笑われた人の手は…震えていた。さっきまで美味しそうにあんみつを食べていたのになぁ。
こっそりと指を差して川口は言った。口は、笑っていても目は…怒りしか無かった。
全く知らない赤の他人でも、助ける、守る。そう言う所が変わらず…尊敬するよ。
さっきから手にしていたスマホをもっと見えるように持ち変えて僕は、手に顎を乗せた。
『話しかけてみる??おじいちゃんですか?ってww』
『行こいこww動画撮る??wネットにばらまいてやろっと!ww』
スマホを取り出して動画を押すが、映る画面は長袖長ズボンの彼ではなく、同じ学校の制服。
女子高校生は疑問に思い、顔を上げる。
変わらず、いつも見る笑顔の川口。
その笑顔で、2人は川口も協力してくれるんだ。と、安心したのか楽しさが増していく。
でも、それを一瞬としてぶっ壊すのが川口だ。
2人から、笑顔はだんだん消えていく。
なんだって…川口は、あんまり人の前では怒らないから。
しかも、川口は元気で明るいからなのか…まぁまぁ人気がある。そんな人から冷たい目で言われて胸がグサッと刺されたのか…
スマホを持つ手が震えるのが分かった。
またニッコリと、笑いながら2人の視線と同じにするように少しずつ頭を低くする。
長袖長ズボンの事や、髪の毛の色などで嘲笑われた人は、少しずつ俯いていた顔を上げて…川口の方を見る。微かに口を動かして『すごい…。』と言っていたのが見えた。
いつの間にか彼の震えも無くなっていた。
1人の女子高校生が、指を差して怒鳴る。
僕は、動画を回したスマホを持ちながら2人の所へ近づく。
動画終了のボタンを押すと、再生ボタンを押す。
2人が嘲笑い…馬鹿にするところから、バッチリと映っている。
動画をばら撒かれることがよっぽど怖いのか二人共、涙まで浮かんできた。
僕がそう言うと、2人は頭をペコペコと下げて嘲笑った相手にも『ごめんなさい。』と言うと、サッサっとこの店から出ていった。
僕が周りへ頭を下げると、川口も続けて頭を下げた。その時に川口がこそっと僕にこう言った。
僕は、心の中で『お前もだよ。』と呟いた。
はい、一件落着…!
席に戻ろうとすると…呼び止める声が聞こえた。
振り返ると、そこには…灰色の髪の毛をした彼が立っていた。
深く頭を下げるもんだから、川口は慌てて『頭を上げな!上げな』と早口で言う。
言おうか言うまいかと迷ったが、ビシッと決めたのか顔を上げて…
僕らが驚くことを口にする。
目を真ん丸ににして驚く僕らにまっすぐと真剣な目で見つめる謎の彼。
コップの中の氷が少し溶けてカランコロンと鳴る音だけが響いた。
【早速、計画変更…。
メンバーが増えるかもしません。】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。