第8話

生きて…生きて生きて…そして、見るんだ。
38
2019/08/30 07:38
このまま、僕らは神社の裏で肩を寄りあって眠りに落ちた。


その日は、久しぶりに暖かい夢を見た。
真っ暗なんかじゃなくて…青空の下、僕どこまでも広がっているまだ見た事のない海を見ていた。

そして、僕の名を呼ぶ声がして振り返ったら…2人の青年が手を振りながらこっちに来るんだ。

顔までは見えない…だけど…誰なのかは分かる。僕も手を挙げて…2人の名を呼んだ。
『…鈴木ぃ!!……川口ぃ!!』
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小鳥の鳴き声で僕は、目が覚ました。
目の前には、雀がいて…朝日の光が僕らを優しく照らしていた。

いつぶりだろうか?こんな暖かい夢を見たのは。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
んっ……朝か
横見れば、まだぐっすりと寝ている2人。それほど疲れたんだろうなぁ。

2人を起こさないように僕は、そっと立ち上がると柵の方へ歩いた。

もう山から顔を出した朝日。その光で川は光り…街じゅうに暖かい朝を迎える瞬間を…僕は見た。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
うわぁ………
僕は、胸あたりに手を当てながらこの風景をただただ見つめていた。

まだ動いている心臓の音。けれど…今でも消えそうだ。…その時、僕はもう分かったんだと思う。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
そっかァ……
自分の体は誰よりも…自分がよく知っている。
表へ行くと、昨夜とは違い…ちょっとだけしんみりと静けさが広まった神社。
ポケットに入っていた5円を取り出し…投げると本坪鈴を鳴らした。
手を合わせて…僕は、【お願い】をした。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
(3人と…海を見れますように。)
鈴木 翔 (スズキ カケル)
…神谷?
本坪鈴の音で起きてしまったんだろうか、神谷と目を擦りながら後から来る川口が見えた。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
おはよう。
川口 仁 (カワグチ ジン)
おはよ〜(あくび)
背伸びしながら、『じゃ、駅にいこっか。』と鈴木は言い…僕も頷いた。
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電車の中は、そんなに混んではいなかったが…空いている席はないぐらい皆、座っていて立っている人も少しいるぐらいの混み具合だった。

そして、海の方へ進むたびに…人が降りていき、気がつけば空いている席が少しずつ出てきた。
会社に行く人…部活で学校に行く人…、遊ぶ人…皆、今を生きていて明日が来るのも当たり前かのように感じているのだろう。
いいなぁ、僕もそんな風な人生を送りたい。
川口 仁 (カワグチ ジン)
なぁ!今年で海に行くの…今日が初めてだぁ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
そこでお前を突き飛ばしてやるから楽しみにしとけよ
川口 仁 (カワグチ ジン)
はぁぁ!??ひでぇなぁ!!
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ははっ!海って塩辛いって聞くけど本当なのか?
鈴木 翔 (スズキ カケル)
本当に塩辛いぞ!!
ほら、海水を飲んだ時のリアクションを川口がやってくれるそうだ。
バッ!と両手で差した方に顔をしわくちゃにした川口が僕を見つめてくる。
川口 仁 (カワグチ ジン)
んげぇ…!!
あまりにも、変顔に近い顔で僕は笑ってしまった。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ぶっははは!……ってここ電車!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
あ、
川口 仁 (カワグチ ジン)
あ、、
すぐに周りを見てみるが…人も少なく、いたとしても寝たりスマホや本を読んでいたので一安心。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
へぇ、そんな顔になるぐらい塩辛いんだ。
よし、舐めてみよう
川口 仁 (カワグチ ジン)
その勇気、尊敬するよ‪w
鈴木 翔 (スズキ カケル)
神谷、海に行くの初めてなんか?
その答えはもちろん…!
僕がGoodをするとそれだけで伝わったのか2人は、『はぁ〜〜、そうなんだ。』と呟いたのが聞こえた。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
海って、凄いよなぁ。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
世界のどこまでも繋がっているし…とても広い…。1回は見て見たいなぁ。
川口 仁 (カワグチ ジン)
なぁ!神谷…この言葉を聞くと生きることを諦めているように感じるが!諦めるなよ?
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
……川口。
川口 仁 (カワグチ ジン)
海なんてな、何回も何回も連れて行ってやる!だから、病気なんかに負けるな!
いつも冗談ばかり言う川口が真剣な目で言うもんだから…本当に何回も飽きるほど海に連れていかれるような気がしてきた。

さらっとカッコイイ事言うなぁ。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
他にもやりたいことあるんだろ?3日とかの期間なんて取り消すよ。手術が終わったら残りの時間でやりたいこと沢山やろうじゃないか!
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
川口…鈴木…
こりゃ、死んでも死んでも死にきれないなぁ。

………諦めたくないなぁ。
川口 仁 (カワグチ ジン)
他にやりたいことは?明日何しようか??
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
そうだなぁ、遊園地でジェットコースターに乗ってみたい
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
大人になったらお酒を飲みたいなぁ。
・屋上から思っきり叫んでみたい

・無人島で1週間過ごしてみたい。

・釣りをしてみたい。

・親と喧嘩をしたい。反抗したい。

・思っきりグランドで走りたい。

・髪の毛を染めてみたい。

・恋愛をしてみたい。

・ドッキリを仕掛けてみたい。

・学校で友達と弁当を食べたい。

・ライブに行きたい。

・美味しいもの腹いっぱい食べたい。




…あぁ、言い出したら止まりそうにないなぁ。
生きて…生きて……それらを全て叶えさせよう。

僕は、まだ死にたくない。まだ16歳なんだ。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ありがとう、僕…生きられるように頑張るね。
そう言うと、2人は安心した顔に変わっていった。



……なんか、眠たいなぁ。…体が重いなぁ。
海を見るんだ。海を見るんだ………。まだ生きるんだ、僕は。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
なんか、眠たいから寝るね。
川口 仁 (カワグチ ジン)
おう、着いたら起こすから寝とけ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
朝早く起きたもんな〜、うん、ゆっくり休めよ
視界からも、だんだん2人が見えなくなってゆく。

真っ暗になって…僕は、睡魔に勝てず夢へ入ろうとしていた。そんな時、こんなことを考えていた。
海を見たら…海を見たら………2人に…こう言うんだ………『僕と……出会ってくれ…て…ありがとう』…って。
2人の話し声を聞きながら、僕は意識を少しずつ失っていった。


































その日、僕は二度と目を覚ますことは無かった。






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