このまま、僕らは神社の裏で肩を寄りあって眠りに落ちた。
その日は、久しぶりに暖かい夢を見た。
真っ暗なんかじゃなくて…青空の下、僕どこまでも広がっているまだ見た事のない海を見ていた。
そして、僕の名を呼ぶ声がして振り返ったら…2人の青年が手を振りながらこっちに来るんだ。
顔までは見えない…だけど…誰なのかは分かる。僕も手を挙げて…2人の名を呼んだ。
『…鈴木ぃ!!……川口ぃ!!』
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小鳥の鳴き声で僕は、目が覚ました。
目の前には、雀がいて…朝日の光が僕らを優しく照らしていた。
いつぶりだろうか?こんな暖かい夢を見たのは。
横見れば、まだぐっすりと寝ている2人。それほど疲れたんだろうなぁ。
2人を起こさないように僕は、そっと立ち上がると柵の方へ歩いた。
もう山から顔を出した朝日。その光で川は光り…街じゅうに暖かい朝を迎える瞬間を…僕は見た。
僕は、胸あたりに手を当てながらこの風景をただただ見つめていた。
まだ動いている心臓の音。けれど…今でも消えそうだ。…その時、僕はもう分かったんだと思う。
自分の体は誰よりも…自分がよく知っている。
表へ行くと、昨夜とは違い…ちょっとだけしんみりと静けさが広まった神社。
ポケットに入っていた5円を取り出し…投げると本坪鈴を鳴らした。
手を合わせて…僕は、【お願い】をした。
本坪鈴の音で起きてしまったんだろうか、神谷と目を擦りながら後から来る川口が見えた。
背伸びしながら、『じゃ、駅にいこっか。』と鈴木は言い…僕も頷いた。
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電車の中は、そんなに混んではいなかったが…空いている席はないぐらい皆、座っていて立っている人も少しいるぐらいの混み具合だった。
そして、海の方へ進むたびに…人が降りていき、気がつけば空いている席が少しずつ出てきた。
会社に行く人…部活で学校に行く人…、遊ぶ人…皆、今を生きていて明日が来るのも当たり前かのように感じているのだろう。
いいなぁ、僕もそんな風な人生を送りたい。
バッ!と両手で差した方に顔をしわくちゃにした川口が僕を見つめてくる。
あまりにも、変顔に近い顔で僕は笑ってしまった。
すぐに周りを見てみるが…人も少なく、いたとしても寝たりスマホや本を読んでいたので一安心。
その答えはもちろん…!
僕がGoodをするとそれだけで伝わったのか2人は、『はぁ〜〜、そうなんだ。』と呟いたのが聞こえた。
いつも冗談ばかり言う川口が真剣な目で言うもんだから…本当に何回も飽きるほど海に連れていかれるような気がしてきた。
さらっとカッコイイ事言うなぁ。
こりゃ、死んでも死んでも死にきれないなぁ。
………諦めたくないなぁ。
・屋上から思っきり叫んでみたい
・無人島で1週間過ごしてみたい。
・釣りをしてみたい。
・親と喧嘩をしたい。反抗したい。
・思っきりグランドで走りたい。
・髪の毛を染めてみたい。
・恋愛をしてみたい。
・ドッキリを仕掛けてみたい。
・学校で友達と弁当を食べたい。
・ライブに行きたい。
・美味しいもの腹いっぱい食べたい。
…
…あぁ、言い出したら止まりそうにないなぁ。
生きて…生きて……それらを全て叶えさせよう。
僕は、まだ死にたくない。まだ16歳なんだ。
そう言うと、2人は安心した顔に変わっていった。
……なんか、眠たいなぁ。…体が重いなぁ。
海を見るんだ。海を見るんだ………。まだ生きるんだ、僕は。
視界からも、だんだん2人が見えなくなってゆく。
真っ暗になって…僕は、睡魔に勝てず夢へ入ろうとしていた。そんな時、こんなことを考えていた。
海を見たら…海を見たら………2人に…こう言うんだ………『僕と……出会ってくれ…て…ありがとう』…って。
2人の話し声を聞きながら、僕は意識を少しずつ失っていった。
その日、僕は二度と目を覚ますことは無かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。