あぁ、夏なのに…夜の風は冷たい。
神谷の声が低くなる。
僕らが納得するように神谷は話し続けた。
神谷の思いや…本音に僕らもとうとう折れてしまった。
さて、花火をどこから見ようかと場所取りに動いた時だった。
向こうで警察が二人いるのが見えた。
別に、僕らは捕まられるような行為はしてないから安心だろうけど…心のどこかでやばい気配を感じ取っていた。
誰かを探しているようだった。
花火を見に来た知らない人へそう聞きながら、取り出した写真。
僕は、何故か気になってそっと近づいた。
すれ違うふりをして写真にちらっと目を向けた。
その写真に写っていたのは…笑顔のない神谷の顔だった。
今見ている神谷の顔とは全く違っていた。
気がつけば…僕は、川口や神谷が居る階段へ走り出していた。
今、見つかったら神谷は病院に帰らないといけなくなる。
約束したんだ、明日まで…明日まで一緒にいるって。
僕の一言で、2人の顔が曇る。
走りながら少しだけ振り向く。警察が怪しそうにこっちを見ている。
幸い、神谷には木と重なっていて警察からには見えないと思うけど…。
2人に近づくと、僕は小さな声で言った。
ここと警察の距離はそう遠くない。
僕と川口で神谷を隠しながら神社の後ろへ回る。
警察も怪しそうに見ていたが…しばらくすると視線をここから外れた。
神谷は、俯いたまま…また『ごめん』と呟いた。
そうと川口が慰めると、神谷は少しだけ微笑んだ。
《花火が打ち上げられる音》
真っ暗な夜空に…1つの大きな花が咲く。
次々と音ともに火の花が姿を現れる。
それを見つめる僕らの瞳にも花火が映る。
遠くで見るよりも、近くで見た方がやっぱり大きくて…綺麗だった。
音もついていて、迫力があった。
僕は、川口…鈴木…2人と一緒に花火を見れて良かったと思う。
僕らは、ただただ…静かに花火を見つめていた。
最後には、最も大きな花火がたくさん打ち上げられて終わった。
終わったあとの空には…煙で覆われていた。灰色の…夜空だ。
今の神谷の言葉を聞いて…不安になった。もう花火を見ることはない。生きている間に見られてよかった。…そう言っているように聞こえた。
怖くなった。
神谷は、もう生きることを諦めて死ぬのを覚悟して、ただただ…死を待っているだけなんじゃないか?…って。
そう思っていたら、ふと出た言葉ー。
小指を出して、指切りげんまんの形を作る。
破りそうに見えるのか?僕は(笑
……でも確かに…約束げんまんをしないと僕は約束を破りそうだ。
だから、僕も小指を出した。
3人で声を揃えて…指切りげんまんを歌った。
『ゆ〜びきりげんまん〜
うっそをついたら〜針千本〜
の〜〜ます!
はいっ!!
指切った!!』
終わった瞬間、何故か笑いが起きた。
どこが面白かったという意味ではないけど…何だか笑ってしまったんだ。
指切りげんまんをしたの…いつぶりだろうか?僕ら3人とも幼い子供に戻ったような気がした。
口に押さえていた手を口から離すと、
目に映った赤い………血。
血を見ると固まる2人。
ごめんね、口から血を吐くとかビビるよね。そんな僕が一緒にいてごめんね。
世話かけちゃっているよね?本当に…ごめんね。
でも、最後に1つの僕のわがままを聞いて欲しい。これで終わりにするから。
本当…わがままでごめんね。
川口は、血がついた神谷の手を必死にティッシュで拭いていて…
僕は、もう神谷を不安にさせないように必死に微笑んだ。
花火の煙も少しずつ無くなってきて…隠さられていた星が見えてくる。
そこには、綺麗な夜空が広がっていた。
…………夏の夜の匂いがした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。