第7話

『ごめんね。』
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2019/08/27 08:10
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
お願いだ……。
あぁ、夏なのに…夜の風は冷たい。

神谷の声が低くなる。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
明日までだ…明日まで……続けたい。
僕らが納得するように神谷は話し続けた。

神谷の思いや…本音に僕らもとうとう折れてしまった。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
わかった。明日までな。その変わり…お願いだ、終わったらすぐに病院に戻れ。
川口 仁 (カワグチ ジン)
成功率10%…でもさ、0%よりはまだまだチャンスがある!諦めないでくれよ!
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
うん、分かった。…ありがとう。
さて、花火をどこから見ようかと場所取りに動いた時だった。

向こうで警察が二人いるのが見えた。
別に、僕らは捕まられるような行為はしてないから安心だろうけど…心のどこかでやばい気配を感じ取っていた。

誰かを探しているようだった。
警察
あの…すみませんがこの者を見かけませんでしたか?
花火を見に来た知らない人へそう聞きながら、取り出した写真。

僕は、何故か気になってそっと近づいた。
すれ違うふりをして写真にちらっと目を向けた。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
…なっ!?
その写真に写っていたのは…笑顔のない神谷の顔だった。
今見ている神谷の顔とは全く違っていた。
警察
あぁ、見かけていませんか…。
え?あぁ……
警察
どうやら病院から逃げ出したみたいで…行方不明なんですよ。見かけたら警察まで連絡をお願いします。
気がつけば…僕は、川口や神谷が居る階段へ走り出していた。

今、見つかったら神谷は病院に帰らないといけなくなる。
約束したんだ、明日まで…明日まで一緒にいるって。
川口 仁 (カワグチ ジン)
あ、鈴木どこいってたんだよ!
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ここから見たらどうでしょうか!?
鈴木 翔 (スズキ カケル)
逃げろ!!
川口 仁 (カワグチ ジン)
え?
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
どうしたんですか?
僕の一言で、2人の顔が曇る。
走りながら少しだけ振り向く。警察が怪しそうにこっちを見ている。

幸い、神谷には木と重なっていて警察からには見えないと思うけど…。
2人に近づくと、僕は小さな声で言った。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
警察が…お前を‪、神谷を探している。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
え?
ここと警察の距離はそう遠くない。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
静かにここから離れるぞ。
僕と川口で神谷を隠しながら神社の後ろへ回る。

警察も怪しそうに見ていたが…しばらくすると視線をここから外れた。
川口 仁 (カワグチ ジン)
大丈夫か?追ってきてないか?
鈴木 翔 (スズキ カケル)
あぁ、大丈夫だ。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ごめん……
鈴木 翔 (スズキ カケル)
え?
神谷は、俯いたまま…また『ごめん』と呟いた。
川口 仁 (カワグチ ジン)
気にすんなよ!謝らなくてええ!
そうと川口が慰めると、神谷は少しだけ微笑んだ。
《花火が打ち上げられる音》
鈴木 翔 (スズキ カケル)
あ!!
川口 仁 (カワグチ ジン)
始まったな!
真っ暗な夜空に…1つの大きな花が咲く。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
わぁ……!!
次々と音ともに火の花が姿を現れる。

それを見つめる僕らの瞳にも花火が映る。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
やっぱり…花火はとてもデカくて綺麗だなぁ!
遠くで見るよりも、近くで見た方がやっぱり大きくて…綺麗だった。

音もついていて、迫力があった。
僕は、川口…鈴木…2人と一緒に花火を見れて良かったと思う。
僕らは、ただただ…静かに花火を見つめていた。
最後には、最も大きな花火がたくさん打ち上げられて終わった。

終わったあとの空には…煙で覆われていた。灰色の…夜空だ。
川口 仁 (カワグチ ジン)
凄かったなぁ…
鈴木 翔 (スズキ カケル)
あぁ、そうだな。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
…見られて本当によかった。二人ともありがとう、連れてきてくれて。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
いや、いいよ。……なぁ、神谷。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
うん?
今の神谷の言葉を聞いて…不安になった。もう花火を見ることはない。生きている間に見られてよかった。…そう言っているように聞こえた。

怖くなった。
神谷は、もう生きることを諦めて死ぬのを覚悟して、ただただ…死を待っているだけなんじゃないか?…って。

そう思っていたら、ふと出た言葉ー。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
来年も、また3人で見ような?
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
……!?
川口 仁 (カワグチ ジン)
あぁ、今度は神社の階段から見ような?
階段から見るとめっちゃいいんだぞ!
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
……うん、見ようね。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
約束だぞ
小指を出して、指切りげんまんの形を作る。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ははっ、指切りげんまん?
鈴木 翔 (スズキ カケル)
じゃないと…お前破りそうだからな。
破りそうに見えるのか?僕は‪(笑
……でも確かに…約束げんまんをしないと僕は約束を破りそうだ。

だから、僕も小指を出した。
川口 仁 (カワグチ ジン)
僕も!ってどうやってやればいいんだ!ま、適当に絡んでおくか!‪笑
3人で声を揃えて…指切りげんまんを歌った。


『ゆ〜びきりげんまん〜


うっそをついたら〜針千本〜


の〜〜ます!



はいっ!!







指切った!!』
終わった瞬間、何故か笑いが起きた。
どこが面白かったという意味ではないけど…何だか笑ってしまったんだ。

指切りげんまんをしたの…いつぶりだろうか?僕ら3人とも幼い子供に戻ったような気がした。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
あははっ……ゴボッ…ゴボゴボッ!!
川口 仁 (カワグチ ジン)
え!?大丈夫か??
口に押さえていた手を口から離すと、
目に映った赤い………血。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
あぁ………。
血を見ると固まる2人。

ごめんね、口から血を吐くとかビビるよね。そんな僕が一緒にいてごめんね。
世話かけちゃっているよね?本当に…ごめんね。



でも、最後に1つの僕のわがままを聞いて欲しい。これで終わりにするから。

本当…わがままでごめんね。
神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
ねぇ………明日は、
川口は、血がついた神谷の手を必死にティッシュで拭いていて…

僕は、もう神谷を不安にさせないように必死に微笑んだ。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
うん……明日はどうしたい?
花火の煙も少しずつ無くなってきて…隠さられていた星が見えてくる。

そこには、綺麗な夜空が広がっていた。

…………夏の夜の匂いがした。




























神谷 由弦 (カミヤ ユヅル)
……海が見たいなぁ。

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