第9話

離れてゆく者
69
2019/08/31 04:32
街だらけの所から抜け……海の方へ電車は走っていた。

だんだん、田舎っぽく変わっていく風景。

窓から2人に目を向ける。川口はスマホを横にしてゲームをしていた。
神谷は、ぐっすりと寝ていた。
その時、僕は何にも危機を感じられなかったんだー。
川口 仁 (カワグチ ジン)
あぁ!!あと少しでドン勝だったのにぃ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
荒野か?
川口 仁 (カワグチ ジン)
そーだよ!かけっちもやろうよぉ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
いや、バッテリーが減るから断り。
川口の誘いを断ると、川口は「ちぇっ〜」と駄々こねる。
川口 仁 (カワグチ ジン)
それしても、よく寝ているなぁ神谷は。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
疲れたんじゃね?…ずっと動き回っていたから。
川口 仁 (カワグチ ジン)
んー、そっだな!
その会話から、何十分経ったのだろう。

窓からの向こうに少し海が見えてきた。
電車のアナウンスが流れる。
『まもなく○○駅です。ドアの近くのお客様は………。』
川口 仁 (カワグチ ジン)
お!この次の駅やな!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
神谷も、早めに海見たいだろうし…起こすか!
神谷の肩に触れた。……何だかいつもよりも冷たいなぁ。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
神谷、次降りるぞ〜起きろ。
肩を揺らした途端、神谷は力が入らないかのようにぐったりと前へ倒れた。

まるで、もう自分の力では動けない…死体のような感じだった。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
……え?
川口 仁 (カワグチ ジン)
…神谷?
床に倒れても、起き上がらずにずっと固まったまま眠る神谷。

………怖くなった。もしかして…もしかして…の場合を考えてしまう。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
おいっ!!神谷!!
急いで、体を揺らすが……神谷はビクッとも動かなかった。
川口 仁 (カワグチ ジン)
冷たいぞ……
神谷の手は、まるで雪のように冷たい。

周りにいたおばさんや、おじさん達は驚いてるだけで決して手を貸そうとはしなかった。
川口 仁 (カワグチ ジン)
どうすればいいんだよ…
突然の状態にパニックになっている川口。

とりあえず、息は………!?…まだ呼吸はある。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
救急車を呼べ!!次の駅で降りる!!
川口はスマホを取り出すが…手が震えているのか上手く打てない様子だった。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
川口……。
川口 仁 (カワグチ ジン)
分かってるよ!!…早く打つから!!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
落ち着け……大丈夫だ。
神谷は死にりゃしない!…いや、させない!
川口 仁 (カワグチ ジン)
…っ!当たり前だろ!!
ちょっと落ち着いたのか、川口は119番と打ち、電話することが出来た。
川口 仁 (カワグチ ジン)
20分で着くってよ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
分かった。
僕は、神谷をおぶりながら電車から降りた。
本当に…神谷は、体温というものが存在がしないような冷たさだった。
ごめんな、気づけなくて。ずっと…ずっと叫びたかったんだろうよ、『助けて。』って。

確認すればよかったな。
病気って言うことを知っていたんならさ…途中でちょっと気にかけたり…すれば良かったな。そうしたら…もっと早く動けたかもしれないのにな。
起きろよ……、なんでずっと寝ているんだよ。

なぁ、海を見るんだろ??約束したんだろ??
駅の出口の近くのベンチで座らせると、必死に僕らは呼びかけた。

他にどうすればいいのか分からなかったから。
…本当にごめんな、ごめんな。
川口 仁 (カワグチ ジン)
ゆづっち!起きろよ!なぁ!
鈴木 翔 (スズキ カケル)
海を見るんだろ??いつまで寝ているんだよ…っ!
駅員も出てきて…タオルなど神谷にかけてくれた。
それで、少しでも暖かくなるはずだ。


しばらくしたら、救急車がやってきた。
僕らが海の近くまで来てしまったから、救急車が追いかけてここに来るのも時間が予想よりもかかったらしい。
救急隊員により、神谷は救急車に乗せられる。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
僕らも乗せさせてください!
僕らも付き添い人として、一緒に病院へ向かった。
救急車の中で僕らは、救急隊員に神谷の状態などを伝えた。
心臓の病気であること。

体中が冷たいこと。

呼びかけても反応しないこと。

昨夜は、血を吐いたこと。

……来週、手術をする予定があること。
話す度に、救急隊員の顔は青くなる。……そして、小さく神谷へ呟いた。
救急隊員
そうか…君が行方不明の患者だったんだね。
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病院に着くと、神谷は早速…手術室に運ばれた。

【手術】と赤く光る扉の前の椅子に僕らは座ってじっとしていた。
今までの事を僕は、思い出していた。


しばらくすると、神谷のお母さんだろう人がこっちに走って来るのが見えた。その同時に手術が終わったのか赤い光が消えた。

扉が開くと、医者らしき人が出てき…走ってきたおばさんと話をする。
僕達も一応立ち上がり…その会話にちょっとだけ耳をすませた。
神谷のお母さん
由弦が見つかったんですか?大丈夫なんですか!?
医者
はい、由弦は今のところ大丈夫です。
『大丈夫です。』という一言で僕らは、ほっとした。
医者
しかし、少しでも遅かったら手遅れだったのでしょう。
今度は、『手遅れだったのでしょう。』の言葉に胸がドクンと高鳴る。

医者はこっちへ体を向けるとこう言った。
医者
君たち…2人に感謝します。もっと早く救急車を呼ばなかったら由弦は今…生きてはいなかったと思います。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
いえ………
神谷のお母さんだろう人と目が合い、僕らは頭を下げる。
医者
…予定変更です。手術の日を早めます。
神谷のお母さん
え?
医者
由弦さんは、この居なくなった3日間でよっぽど無理をしたのでしょう。体が限界を迎えています。
神谷のお母さん
あ、あの…いつ手術を??
医者
明後日です。僕達も…全力を尽くします。
頭を下げると、医者は手術室へ戻った。

手術……成功率10パーセント。明後日で『生きるか』、『死ぬか』が決まる。
残された僕らは、由弦の心配と…手術の成功をただただ祈るしかなかった。
神谷のお母さん
……あ、あの…2人さん。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
は、はい!
神谷のお母さん
ごめんなさいね。由弦のわがままに付き合ってくれたんでしょう?
川口 仁 (カワグチ ジン)
そんなこと…!
由弦のお母さんは、優しく顔を振った。微笑んでいたが…やっぱり不安と心配で溢れている顔だった。
神谷のお母さん
分かるのよ。ずっと…外に出て、やりたいことをやりたいって言ってたから。
由弦の変わりにお礼を言います。ありがとうございます。
鈴木 翔 (スズキ カケル)
いえいえ、こちらこそ…。
川口 仁 (カワグチ ジン)
僕らもゆづっち…あ、いや由弦さんと一緒に過ごせて楽しかったです。
ふふっ。と神谷のお母さんは優しく‪笑う。
川口 仁 (カワグチ ジン)
あ、すみません…。言い慣れたもんで…
神谷のお母さん
いえいえ、そっちの方が…由弦もそうやって呼んで欲しいと思うわ。
1回、手術室を見つめると…お母さんは悲しそうに口を開いた。
神谷のお母さん
本当に申し訳ないけど……二度と…
全ての終わりを告げる時間が流れた。


神谷との思い出が…止まらずにずっと頭の中で蘇る。

また3人で話したい。また今度こそ海へ行きたい。


























神谷のお母さん
由弦とは、もう会わないで…。

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