街だらけの所から抜け……海の方へ電車は走っていた。
だんだん、田舎っぽく変わっていく風景。
窓から2人に目を向ける。川口はスマホを横にしてゲームをしていた。
神谷は、ぐっすりと寝ていた。
その時、僕は何にも危機を感じられなかったんだー。
川口の誘いを断ると、川口は「ちぇっ〜」と駄々こねる。
その会話から、何十分経ったのだろう。
窓からの向こうに少し海が見えてきた。
電車のアナウンスが流れる。
『まもなく○○駅です。ドアの近くのお客様は………。』
神谷の肩に触れた。……何だかいつもよりも冷たいなぁ。
肩を揺らした途端、神谷は力が入らないかのようにぐったりと前へ倒れた。
まるで、もう自分の力では動けない…死体のような感じだった。
床に倒れても、起き上がらずにずっと固まったまま眠る神谷。
………怖くなった。もしかして…もしかして…の場合を考えてしまう。
急いで、体を揺らすが……神谷はビクッとも動かなかった。
神谷の手は、まるで雪のように冷たい。
周りにいたおばさんや、おじさん達は驚いてるだけで決して手を貸そうとはしなかった。
突然の状態にパニックになっている川口。
とりあえず、息は………!?…まだ呼吸はある。
川口はスマホを取り出すが…手が震えているのか上手く打てない様子だった。
ちょっと落ち着いたのか、川口は119番と打ち、電話することが出来た。
僕は、神谷をおぶりながら電車から降りた。
本当に…神谷は、体温というものが存在がしないような冷たさだった。
ごめんな、気づけなくて。ずっと…ずっと叫びたかったんだろうよ、『助けて。』って。
確認すればよかったな。
病気って言うことを知っていたんならさ…途中でちょっと気にかけたり…すれば良かったな。そうしたら…もっと早く動けたかもしれないのにな。
起きろよ……、なんでずっと寝ているんだよ。
なぁ、海を見るんだろ??約束したんだろ??
駅の出口の近くのベンチで座らせると、必死に僕らは呼びかけた。
他にどうすればいいのか分からなかったから。
…本当にごめんな、ごめんな。
駅員も出てきて…タオルなど神谷にかけてくれた。
それで、少しでも暖かくなるはずだ。
しばらくしたら、救急車がやってきた。
僕らが海の近くまで来てしまったから、救急車が追いかけてここに来るのも時間が予想よりもかかったらしい。
救急隊員により、神谷は救急車に乗せられる。
僕らも付き添い人として、一緒に病院へ向かった。
救急車の中で僕らは、救急隊員に神谷の状態などを伝えた。
心臓の病気であること。
体中が冷たいこと。
呼びかけても反応しないこと。
昨夜は、血を吐いたこと。
……来週、手術をする予定があること。
話す度に、救急隊員の顔は青くなる。……そして、小さく神谷へ呟いた。
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病院に着くと、神谷は早速…手術室に運ばれた。
【手術】と赤く光る扉の前の椅子に僕らは座ってじっとしていた。
今までの事を僕は、思い出していた。
しばらくすると、神谷のお母さんだろう人がこっちに走って来るのが見えた。その同時に手術が終わったのか赤い光が消えた。
扉が開くと、医者らしき人が出てき…走ってきたおばさんと話をする。
僕達も一応立ち上がり…その会話にちょっとだけ耳をすませた。
『大丈夫です。』という一言で僕らは、ほっとした。
今度は、『手遅れだったのでしょう。』の言葉に胸がドクンと高鳴る。
医者はこっちへ体を向けるとこう言った。
神谷のお母さんだろう人と目が合い、僕らは頭を下げる。
頭を下げると、医者は手術室へ戻った。
手術……成功率10パーセント。明後日で『生きるか』、『死ぬか』が決まる。
残された僕らは、由弦の心配と…手術の成功をただただ祈るしかなかった。
由弦のお母さんは、優しく顔を振った。微笑んでいたが…やっぱり不安と心配で溢れている顔だった。
ふふっ。と神谷のお母さんは優しく笑う。
1回、手術室を見つめると…お母さんは悲しそうに口を開いた。
全ての終わりを告げる時間が流れた。
神谷との思い出が…止まらずにずっと頭の中で蘇る。
また3人で話したい。また今度こそ海へ行きたい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!