〔沙夜の家〕
アンナ)「グスッ...ズビッ..(鼻をすする)」
キヨ)「さぁ、どうぞ。お茶よ」
アンナ)「す、すみません」
キヨ)「いいのよ」
アンナ)「さ...沙夜は?」
キヨ)「んー?ハンバーグ作りたいからってあわてて宿題やってるわ」
アンナ)「そっかぁ...」
お茶をすする
キヨ)「フフフ、なんだか懐かしいわ」
アンナ)「え?」
キヨ)「あなたぐらいの女の子ち話す機会なんて...マキがいなくなってからは無くなってしまったから...」
アンナ)「....マキって死んじゃった、沙夜のママ?」
キヨ)「ええ...」
アンナ)「...そうなんだ...」
アンナ)「こ...」
キヨ)「え?」
アンナ)「子どもができたって聞いたとき、おばさん怒りました?
一人で産んだんでしょ?」
少し焦った様子だ
キヨ)「! え?」
キヨ)「あらやだ。沙夜ちゃんそんなことまで話してしまったの?」
少し戸惑った様子だったが続けた
キヨ)「...そうなの。昔から気が強くておてんばで...。ある日突然、一人で子どもを産むって聞かされたかと思ったら、あっという間に留学してしまったの」
キヨ)「親なのに...ろくに相談してもらえなかったの。
私なんかいなくてもいいみたい...
寂しいでしょ?」
そんなこと言いながら笑っていた
ひきつった顔で。
アンナ)「.......」
アンナ)「..言えないよ」
キヨ)「え?」
アンナ)「親だから話せないんだよ。本気で自分のこと考えてくれるのって、結局親だけって知ってるよ」
アンナ)「甘えてわがままになるときもあるけど、本当は誰よりも幻滅させたくない..」
アンナ)「あたしってね、英語全然できないんです。受験って、どれ選択しても英語って必要じゃないですか」
アンナ)「レベルの低い学校の推薦枠しかもらえそうになくて...
担任はため息ついてたし、頭いい子は、そんな推薦要らねーって笑ってた」
アンナ)「あたし、なんだかもう嫌になっちゃって、進学するのやめよーと思ってたんだけど、..父さんたちは行ける学校あるだけマシだって喜んでた」
〔回想〕
信雄)「いやー、俺の頭に似なくて良かったなぁ」
マサ子)「あんたはバカすぎるもんねぇ」
[大笑い]
〔現在〕
アンナ)「馬鹿みたいに笑ってるから、だったら受験しよっかってなって」
アンナ)「カレシのシローはね、機械なんとかってめんどーな専門行ったんだけど、今年やっと就職決まったの」
キヨ)「そう、良かったわね」
アンナ)「.......グスッ」
また、涙が溢れるアンナ
キヨ)「あ、、あらあら...?どうしたのかしら??」
アンナ)「だ...だからアタシ、困るもん..
突然こんなこと...」
アンナ)「どうしたらいいか分からないの」
アンナ)「だったら全部、なしにしようって」
お腹を押さえる
アンナ)「あたし...いるかもしれない
子ども.......」
〔沙夜〕
宿題していた沙夜 わからないところがあった
沙夜)「うー..ん、分からないや」
キヨがいるところに向かう
沙夜)「バーバ...ここ.....」
声が聞こえてきた
アンナ)「あたしいらない、
子どもなんて...........」
沙夜は立ち止まった
アンナ)「一人でなんて産みたくない
怖いよ...。
ムリだもん.....」
アンナ)「どうしよう...あたし..どうしよう....」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!