パンパン!
──オオォォォォ
真っ暗な夜空に華々しく輝く花火。
そんな花火とは釣り合わない保健室。
薬品の匂いが鼻をかすめる。
「これでよしと!」
「悪いな」
秀の怪我の手当のため、私たちは保健室に来た
「なぁ美桜。昨日言ってた話だけど」
「ねぇ秀。憶えてる?私のこと庇おうとして2人共怪我をした体育祭。それと、子猫を助けてくれたあの雨の日」
私は振り返って秀を見る。
「美桜…思い出したのか…?」
「…うん」
少しの沈黙の後、私はそう返した。
「俺は美桜の心に深い傷を負わせた。許されないことをした。だけど…だけど俺…!」
「確かにあの時は辛かった… だけど、私よく考えてみたらさ」
「秀のこと本当に嫌いだなって思ったこと、1度もなかった」
「馬鹿だよね…私、秀に愛想つかれたのに…ずっと好きだったなんて… 笑っちゃ…」
私がそれ以上言葉を発せなかったのは温かい何かに包まれたから。
「俺だって美桜のこと愛想ついたことなんて1度もない!ずっとずっと…好きだ!」
あぁ…温かい。
私は涙目の秀の背中に手を回す。
「私たち…かなり遠回りしちゃったね」
ヒュ〜〜 パンッ
花火の音がどこか寂しく聞こえた。
「それで美桜に気にしてもらいたくて…」
一通りの流れは秀から聞いた。
「くだらないよな…俺なんか美桜の隣にいる資格ないのに」
「そうかな?私はもう気にしてないよ。だって秀のこと好きだから」
「あ、あのなぁ〜///」
真っ直ぐ想いを口にするのがこんなにも大切だったなんて知らなかった。
" 好き "
たった2文字。
風にかき消されるかもしれないそんなただの言葉。
だけど…言うか言わないかでは全く違う未来に辿り着く。
こんな大事で当たり前なことを忘れてたなんて…
だけど…もう大丈夫。
もう忘れない。
だから何度でも言うよ。
「君が好き」
私の言葉は花火と共に 空へ溶け込んで行った
-Fin-
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!